研究課題/領域番号 |
20H02160
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山本 貴富喜 東京工業大学, 工学院, 准教授 (20322688)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウイルス / センサ / インピーダンス / ナノポア / 交流 / 機械学習 / 超微少電流 |
研究実績の概要 |
これまでも度々問題になっていた現象であるが,バクテリア計測時はバッファである生理食塩水の塩濃度が高く導電率も高いため,高電界を印加すると電極エッジ部分に電界が集中して電極反応により電極が電気分解する問題が顕著になった。そこで電極の保護のため,デバイス形状の大幅な見直しを行った。具体的には,これまでのデザインとは逆に電極のエッジは使わずに電極面積をなるべく大きく使うように測定セルの形状を変更した。さらに電極間に仕切り板を設け,その中央部の一点のみに直径数100nmから数umの孔(ナノポア)を作製し,電極から出た電気力線をナノポア内に集中させることで高電場を生ぜしめ,ナノポア内のみを高電界の測定空間とする工夫をした。また,仕切り板部分の厚みが薄いと,この部分の電気容量が大きくなりカットオフ周波数が低下するため,膜部分は25umと比較的厚くすることでカットオフ周波数を10kHz以上に設定した。このデバイスを用いて高電界インピーダンス測定をしたところ,乳酸菌,大腸菌それぞれの単一バクテリア由来の信号を数100pAレベルで計測することに成功し,単一バクテリア計測の実証に成功した。さらに得られた電流波形に対して,k-近傍法,ロジスティック回帰,ベクトルサポートマシン,ランダムフォレストなどの基本的な機械学習アルゴリズム4種を適用してバクテリアの種類の同定性能を評価した。測定データはアンダーサンプリングにてデータ数を揃え,各学習モデルに対して5分割交差検証で評価した。その結果,最も良い正解率を出したのはランダムフォレストで,乳酸菌,大腸菌,ポリスチレン粒子の3種類からのそれぞれの粒子同定の正解率は87.7%に達した。以上,当初の実験計画の目標である,高電界インピーダンス測定法による単一バクテリア測定の実証,および機械学習を利用したバクテリアの同定を達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々がこれまでに開発した高電界インピーダンス測定法は,電極エッジ部分に電界が集中するため電極反応による電気分解が以前より問題になっていた。今年度はこの課題に対して,電極面積は大きくして電界の集中を防ぎつつ,電極間に電場を遮蔽する構造を配置して1カ所のみに直径数100ナノメートルから数マイクロメートルの孔(ナノポア)を開けることにより,電場をナノポア内に集中させて従来の高電界インピーダンス測定法と同等の高電界効果を得つつ,電極反応による電極の分解を大幅に抑制することに成功した。このデバイスを用いた測定から,乳酸菌,大腸菌,の単一バクテリア測定の実証に成功した。さらに得られた電流波形に対して,ベクトルサポートマシン,ランダムフォレストなどの基本的な機械学習アルゴリズム4種を適用して,バクテリアの種類の同定性能を評価した。乳酸菌,大腸菌,ポリスチレン粒子の3種類からそれぞれの粒子の同定を試みた所,最も良い成績を出したランダムフォレスト法では87.7%の精度で同定することに成功した。以上,当初の実験計画の目標である,高電界インピーダンス測定法による単一バクテリア測定の実証,および機械学習を利用したバクテリアの同定を達成することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に変更したデバイスのデザインに伴う現象の解明と供に,それを通じて測定精度や感度の向上を図る。現象の解明に関しては,まず溶液の導電率やpHなどの液性条件と電気信号との相関を調べることで基本的な特性を明らかにすることからアプローチする。理論構築に当たっては,有限要素解析シミュレーションも利用する。さらに,可能な範囲で本デバイスの計測シミュレーターの構築も試みる。バクテリア計測に関しては,様々なバクテリア測定から本手法がユニバーサルにバクテリア計測能を有することを実証すると共に,各バクテリアの測定データベースを構築する。さらに,機械学習のアルゴリズムを改良して同定性能を上げることで,新たなバテクテリアセンシング法としての確立を目指す。機械学習に関しては,得られる電流波形をそのまま画像認識させるなど,これまでの回帰分析的な手法以外のより高度なディープニューラルネットワークの活用も検討する。
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