前年度までに当初設定していた目的は達せられたため、これまでの研究の過程で生まれた新たな課題の解決に取り組むことで研究を更に深化させるべく、主に次の2点に関して取り組んた。1) カットオフ周波数の広帯域化(高周波化)、2) ニューラルネットワークを利用することによる分類性能の向上。我々が開発したACナノポア法は、測定周波数がサンプリング周波数と同等の役割を果たすため、測定周波数が高い方が情報量が多く正確な測定波形を得られる特徴がある。また、細菌の誘電特性を測定するためにも広帯域での誘電分散計測が必要になる。そこで従来の逆転の発想で、薄膜大面積から厚膜低面積型のナノポアとすることで、ナノポア自体のキャパシタンスを低下させることでカットオフ周波数を昨年度から200倍程高周波化させることに成功し、約2 MHzの帯域を有するナノポアチップを実現した。次に、広帯域ナノポアチップを用いた高精度測定に基づく分類性能の評価を行った。昨年度から約100倍周波数が高い測定周波数に当たる100 kHzから300 kHzで人工粒子、大腸菌、乳酸菌など6種類からなる粒子群の分類を試みた。昨年度に評価したランダムフォレスト、サポートベクトルマシン、k近傍法、ロジスティック回帰などの機械学習の手法で比較したところ、ランダムフォレスト法で最も良い78%以上の分類精度が得られた。一方、新たに開発したニューラルネットワークを用いて分類を試みたところ、9種類の細菌群に対して97%以上もの分類精度が得られた。高精度な測定を実現する広帯域ナノポアデバイスと、ニューラルネットワークを利用した分類器の両方を組み合わせて用いることにより、様々なバクテリアを単一粒子レベルで高精度に分類できることが明らかになった。 以上、本研究課題が目的とする、単一バクテリア計測の実証と高精度分類をより高いレベルで実現するに至った。
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