研究課題/領域番号 |
20H02161
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
木寺 正平 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00549701)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロ波イメージング / レーダ信号処理 / 非破壊検査 / 医療生体画像診断 / 乳癌診断 / 深層学習 / トモグラフィ / 電磁界逆散乱問題 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,マイクロ波,ミリ波,テラヘルツ波等の電磁波センシング技術のためのレーダ理論とトモグラフィ理論を融合した全く新しい多元的画像解析法の研究基盤を創出することである.本課題では,独自のレーダ理論とトモグラフィ理論を統合させ,従来の精度・分解能等の限界を超えるとともに,多重散乱波や多偏波データの双方向処理に基づく多元的な画像解析法を構築し,各種の波長帯へ拡張可能な革新的な電磁波センシング技術を創出する. A.「コンクリート内部空洞・腐食識別のための多元的非破壊イメージング」 コンクリート非破壊検査を想定し,レーダとトモグラフィの融合させることによって未知数を低減させることで、劣悪な設定においても高い精度で複素誘電率を再構成させる.また双方向処理により,関心領域(ROI)も更新し,異物の形状・位置を高精度化させる.同手法を数値計算及び実験においてその有効性を確認する. B.「乳がん検知等を想定した医療画像診断法」 トモグラフィ方式としてContrast Source Inversion (CSI)法を導入する.同手法は順問題計算を繰り返し実施する必要がなく,3次元問題においても現実的な計算時間で誘電率を再構成できる方法として有望である.一方で未知数がデータ数よりも多いために,同不良設定性により再構成精度が不十分である.これに対して,脂肪の複素誘電値が乳腺,皮膚,がん組織よりも十分低いということを利用して,脂肪以外をROIとして割り当てることで未知数を低減させる方法を導入する.また機械学習を用いた誘電率推定法を導入し、数値計算及び実機実験により検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題Aについては,CSI法とレーダ画像化法であるRPM法を統合した複素誘電率分布推定法を提案した.RPM法による反射点からROIを推定しその後,同ROI内部のみでCSIを実施することで精度を改善させた。また土木研究所の協力を得て,実際のコンクリート床板を模擬した試供体を用いた実機実験を実施した.厚さ50mmのアスファルト下にある床板表面の空洞や水の位置及び誘電率値をある程度の精度で推定することができることを確認した.更に,深層学習を用いて実験データを数値計算データに変換することで,実際のレーダ装置固有の特性(アンテナ、偏波、筺体内部の反射)などを相殺するような高精度にキャリブレーションする方法を提案し,実環境での有効性を検証した.
課題Bについては,脂肪組織を背景媒質としてみなすことで,未知数を大幅に低減する方法を導入した.具体的には最初にすべての領域をROIとしたCSI法を適用し,同結果における誘電率値が高い部分のみをROIとして選択し,同ROIのみで再度CSIを実施することで誘電率値が高いところ、すなわちがん組織を含む部分での再構成精度を改善させる方法を導入した.MRI画像から抽出した精緻な乳房ファントムモデルを用いた数値計算において低濃度及び高濃度ブレストの各ケースにおいてその有効性を示した. また畳み込みオートエンコーダを用いたレーダデータから直接的に誘電率分布を推定する手法を構築し,同結果をCSIに入力することで物理的制約条件を保証しつつ,高精度な誘電率分布再構成を実現させた.同手法は簡易ファントムモデルを用いた実機実験でも検証済みである.また,広島大学病院によって実施された臨床試験データを用いて,レーダ画像による癌識別についても検討し,以前に導入した表面は抑圧法を導入することで,がん以外の不要な応答を抑えることに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
Aの課題においては,「多重散乱波」及び「多偏波データ」と画像解析を双方向処理することで多元的画像化を実現させ,対象(空洞・腐食・液状化)の識別精度を改善させる.特に,鉄筋やコンクリート表面・内部等の各部で発生する多重散乱波は,直接散乱波と異なる経路を取るため,従来のレーダ画像では得られないROIの情報を有している.これに着目し,既に確立している多重散乱波解析によって,ROI推定を高精度化させる.また,目標の構造及び複素誘電率の情報を有する多偏波データ解析において,トモグラフィ法との統合により,多偏波データが有する対象構造と複素誘電率の情報を分解することで,目標識別における信頼性を飛躍的に高めることができる.本手法は,精緻な電磁界解析シミュレーション(FDTD法等)による数値解析データ及び偏波切替可能な超広帯域レーダ装置(本補助金で導入)を用いた実機実験の両輪で性能を評価する.
Bの課題においては,CSI法の3次元問題への拡張が重要である.3次元問題においては,不均質媒質に起因する偏波交換効果により,積分方程式をベクトル形式、すなわち多偏波データを考慮した形で解く必要がある.既にその有用性を確認しているが,特に未知数が2次元問題に比べて大幅に増大するので,不良設定性が顕著になり,精度が確保できない可能性がある。このため,レーダ方式により乳腺等の誘電率が高い個所をあらかじめ推定することで,ROIを絞り込む手法を検討する.本課題は3次元数値計算及び簡易乳房ファントム、臨床試験データにおいてその有効性を確認し,特にがん組織の誘電率値を高い精度で再構成させることが目標となる.
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