研究課題/領域番号 |
20H02174
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
植村 哲也 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (20344476)
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研究分担者 |
近藤 憲治 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (50360946)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ワイル半金属 / スピン軌道相互作用 / スピン軌道トルク / ハーフメタル強磁性体 / 強磁性トンネル接合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,磁性ワイル半金属材料において発現する強いスピン軌道相互作用を利用した強磁性体磁化制御の学理を確立し,高速性・低消費電力性に優れたスピントロニクスデバイスを実現することである.そのため,ワイル半金属であることが理論的に指摘されているホイスラー合金(以下,ワイル型ホイスラー合金とよぶ)をスピン源としたスピン軌道トルク(SOT)の特性を理論および実験により明らかにするとともに,これを利用した強磁性体磁化制御を確立する. 2020年度は主に,ワイル型ホイスラー合金の探索とその異常ホール効果を活用した強磁性体の磁化制御に取り組んだ.具体的には,フェルミ準位近傍にワイル点があることが理論的に示され,また実験的にも大きな異常ホール効果が観測されているCo2MnAlやCo2MnGaのホイスラー合金薄膜に着目し,それらの結晶構造解析,及び異常ホール効果や縦磁気抵抗効果などの磁気輸送特性評価を通じて,薄膜の成膜条件を最適化した.さらにこれらをスピン源として,MnGa/Co2MnSi強磁性体二層膜のSOT磁化反転を実証した. また,磁性ワイル半金属の磁気伝導率を理論的に検討した.有効モデルとして,Type-IとType-IIの両方のタイプを表現できる有効ハミルトニアンを使用し,このモデルの磁気伝導率をBerry曲率が考慮された古典ボルツマン方程式によって計算したところ,Type-Iのワイル半金属では従来から知られた,カイラルアノマリによる負の磁気抵抗効果が得られたが,Type-IIのワイル半金属では,カイラルアノマリによる負の磁気抵抗効果のみならず,正の磁気抵抗効果がカイラルアノマリによっておこることが分かった.これは,Type-IIでは磁場印可によって形成されるランダウ準位の曲率が変わらず,Type-Iではランダウ準位の曲率が反転することが原因であることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁性ワイル半金属材料として指摘されているCo2MnGaによるSOT磁化反転を実証しており,当該年度の目標をおおむね達成している.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,ワイル半金属材料の探索とそれを用いたSOT磁化反転についての研究を推進するとともに,それを活用した3端子型強磁性トンネル接合(MTJ)素子の開発をめざす.具体的には以下の項目を実施する. (1)ホイスラー合金をベースとした磁性ワイル半金属の探索 [ワイル型ホイスラー合金/spacer/強磁性体]からなる積層構造を作製し,ワイル型ホイスラー合金の異常ホール効果により生成されたスピン流を,spacer層を介して強磁性体に注入することで強磁性体の磁化反転を試み,その効率を評価する.ワイル半金属材料としては昨年度から取り組んでいるCo2MnAlやCo2MnGaを第一の候補とし,現在,SOT磁化反転で代表的に用いられているTaやPtのスピンホール角と同等以上のスピンホール角の実現をめざす.これらの材料において所望の特性が得られなかった場合,薄膜の組成制御やドーピングなどによりフェルミ準位をシフトさせることや,ワイル点の形成が理論的に予測されているCo2TiSiなどの他のホイスラー合金へ探索対象を広げる. (2)SOT磁化反転を活用した3端子型MTJの開発 上記(1)の[ワイル半金属/spacer/強磁性体]を磁化自由層に組み込んだ3端子型MTJの実現を目指す.強磁性体には同じホイスラー合金の一種で高いスピン偏極率が期待されるCo2MnSiやCo2Mn(Fe,Si),Co2Fe(Ga,Ge)を候補とし,トンネル障壁部にはMgO層を用いる.これらの材料は高い磁気抵抗比を有するMTJの電極材料としての有効性が実証されている.スピントルクを受けた強磁性体の磁化状態はMTJのトンネル磁気抵抗変化により検出する.
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