研究課題/領域番号 |
20H02176
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
本久 順一 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60212263)
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研究分担者 |
冨岡 克広 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (60519411)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 半導体ナノワイヤ / ナノワイヤレーザ / ベクトル光波 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、ナノワイヤを利用したベクトル光波を発生する素子構造として提案しているもののうち、WGM型の発光特性の評価を行うとともに、そのナノワイヤからのベクトル光波の発生を確認した。具体的には、有機金属気相選択成長法により作製したGaAs/InGaAs/GaAs コアマルチシェル構造のナノワイヤに対し、まず連続光励起下の顕微PL測定により、Q値が200程度の共振モードが複数のナノワイヤで観測されることを確認した。そして、パルス光励起による評価を行ったところ、連続光励起ではブロードな発光しか観測されなかった波長において、励起光強度に対し非線形的に増大する発光ピークを複數のナノワイヤにおいて観測した。これはナノワイヤがレーザ発振していることを強く示している。そして、連続光およびパルス光励起のそれぞれの条件で、発光のピーク強度の偏光依存性を評価したところ、λ/2波長板の回転角に対し90度周期で強度が振動的に変化する一方で、λ/4波長板に対してはその回転角にはほとんど依存しない発光ピークが存在することが明らかとなった。これはナノワイヤからの発光が単純な直線偏光もしくは円偏光とはなっていないことを示している。さらに、パルス光励起の条件下で非常に強度の強い単一ピークが観測されているナノワイヤについて、その発光像を観測したところ、発光像の強度分布が、λ/2波長板の回転角に応じて周期的・空間的に変化することが明らかとなった。この結果は、ナノワイヤからの発光スポットの偏光分布が空間的に一様でなく、そしてまた軸対称となっていることを示しており、以上よりベクトル光波の発生が確認された。同時に発光像のストークス解析を行ったところ、得られたナノワイヤからのベクトル光波は低次のベクトル光波となっていることを示唆する実験結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、WGM型のナノワイヤからのベクトル光波の発生確認が行えたことにより、初年度に達成するとして設定していた研究の第1段階をクリアすることができた。同時に、偏光のストークス解析の初期的な結果では、観測されたベクトル光波は低次のベクトル光波となっていることが示唆されている。当初、現在のWGM型では高次のベクトル光波が発生すると予想しており、低次のベクトル光波の発生は最終的な目標であった。現在得られている初期的な実験結果は、今後のより詳細な実験や理論計算などによりもっと厳密に確認する必要があるが、本研究では想定していなかった成果・知見となる可能性があり、研究としては実りあるものと判断できる。コロナ禍による研究活動の制限・低下による影響は大きく、特に理論的検討面や対外発表の件数といった点では多少遅れや十分とは言えない点はあるものの、以上のとおり実験的成果がある程度得られたことで、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究の第1段階をクリアすることができているため、研究の方向性としては当初より大きく変更する必要はないと考えるが、これまで実際に行なった実験・研究の成果より、実験の方法・内容だけでなく、励起光強度や波長板の回転角など、多くのパラメータを変化させつつ、安定して長時間データを収集するための工夫などが必要であることが明らかとなった。このため、実験系の改善・工夫に力を注ぎ、より信頼性の高いデータを取得し、また得られた大量のデータを適切に解析することを重視して研究を進める。これによって当初の研究計画を遂行するとともに、得られた知見をより説得力あるものとし学問的に確かなものすることができると考えている。その後、計画どおり、金属クラッド型構造の作製とベクトル光波の発生の実験に取り組む。また、当初の予想とは異なる結果が得られているため、理論的な面での考察もより深める必要がある。これは現在若干遅れている面ではあるが、令和2年度に導入した光波解析ソフトウェアを効率的に利用し、現象の理解に務め、またナノワイヤを利用したラゲール・ガウス光波発生の可能性を探索する予定である。
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