研究課題
色中心スピンのデコヒーレンス時間の母体材料依存性:色中心スピンを構成しうるホスト材料について、大規模クラスタ計算により対象となる材料を絞りこんだ。その結果、酸化物材料において、天然核スピン存在比で位相緩和がミリ秒を超える母体材料が多く発見された。特に、酸化セリウム(47ミリ秒)、酸化カルシウム(34ミリ秒)などが有望な材料であり、これまで主に用いられてきた、ダイヤモンドや炭化シリコンと言った、1ミリ秒前後の位相緩和時間を持つ材料に対して、その10倍以上長い位相緩和時間を有する材料が報告された。加えて、これらの位相緩和時間予測は、クラスタ相関展開(CCE)計算に基づいた大規模行列計算により得られたが、CCE計算は数分~数日かかる計算として知られていた。単一核スピン種で構成されるスピン浴の位相緩和時間に、その核スピン濃度、ランデg因子、スピン量子数に対するスケーリング則が成立することを明らかにした。更に、電子スピン及び量子数についての一般化スケーリング則を明らかにすることに成功した。これは、コレまで最大数日を要した位相緩和時間計算予測が瞬時に可能になったことを意味し、大規模で定量的な位相緩和時間計算予測が現実的な時間で実行可能となったという、学術的なブレイクスルーとなった。酸化物色中心における量子状態の制御:母体材料中にイオン注入により色中心元素を打ち込み、熱処理条件依存性から、単一欠陥中心生成条件を詳細に調べた。特に、偏光光学特性から、トンネル接合材料において、イオン注入後の熱処理により、孤立欠陥中心作製条件が明らかになりつつある。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで、位相緩和時間を計算により予測するため、クラスタ相関展開(CCE)による近似を用いているものの、実直に時間発展ハイゼンベルグ方程式の大規模行列計算により材料の予測を行ってきた。今回、位相緩和時間に対する一般化スケーリング則が発見されたことにより、大規模行列計算に頼ることなく、代数的な位相緩和時間の解を求めることに成功した。これは、1950年代に量子ビットの位相緩和時間計算が初めて提唱され、「実材料における移送緩和時間を求める」という究極目標に対して初めて解を出した。スピン物理一般にインパクトのある成果であり、かつ量子情報研究50年来の課題を解決し、かつ大規模量子材料探索に応用可能であるということ、加えて、特別なコードやツールを用いなくても誰でも量子材料探索が可能になったという点においても、研究計画立案当初に期待していた最終的な成果よりも大きな成果がすでに得られている。今後は、これにより可能となった一層の研究加速により、実験的にこれらを実証する。
色中心スピンのデコヒーレンス時間の母体材料依存性:上記スケーリング則は三次元材料において求めたものであり、これらを更に二次元材料に拡張することに取り組むことで、新たな量子材料系へ拡大可能なスケーリング則を得ることを目標とする。これにより、更なる大規模量子材料探索を可能とすることを目指す。酸化物色中心における量子状態の制御:昨年度に引き続き、トンネル接合材料において、イオン注入後の熱処理により、孤立欠陥中心を作製する。一般化スケーリング則に基づいた大規模量子材料探索により得られた、有望なスピントロニクス絶縁体材料において、孤立欠陥中心を作製する。特に、共焦点顕微系の構築と、偏光レーザーによる光学検出磁気共鳴測定系の構築を行い、これらの材料における位相緩和時間を明らかにする。特に、大口径の基板が入手可能な材料を用いることにより、電子線描画による高度なリソグラフィ技術を応用する基盤技術を確立する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 17件、 招待講演 6件)
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