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2020 年度 実績報告書

超省電力化と超高速化を両立する希土類・遷移金属フェリ磁性細線メモリの創成

研究課題

研究課題/領域番号 20H02185
研究機関豊田工業大学

研究代表者

粟野 博之  豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40571675)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード磁性細線 / 電流磁壁駆動 / 電流磁壁移動速度 / 希土類・遷移金属合金 / 電流パルス幅 / 電流密度 / g値 / レーストラックメモリ
研究実績の概要

GdFeCo磁性細線の磁壁移動速度を広い温度範囲で高速駆動することが出来た。
①GdFeCoのFeとCoの比率を75zt%から88at%に変え、ほとんどFeという状態にすると、高速で安定駆動が可能になった。試料ステージの温度を室温~70℃まで変えたが、磁壁移動速度は1500m/secを維持した。温度範囲を広げてもこの高速速度は維持できるものと考えている。これは、Feのg値が2.10と、Gdのそれに近い値となっている。一方、Coのg値は2.22とGdの値から離れている。これは空く運動量補償温度に効いてくる。GdとFeのg値が近いということは、角運動量補償温度と磁化補償温度が近くなる。磁壁移動速度は角運動補償温度付近で早くなり、磁化補償温度付近でも早くなる。したがって、両方の補償温度が近いほど、より磁壁移動速度が向上するため、今回の高速駆動が出来たものと考えている。また、両者の補償温度が近づきすぎるとその補償温度付近でしか磁壁移動速度は速くならない。すなわち、温度変化に対する安定性が確保できなくなる。一方、GdCoのようにGdとCoのg値が離れると、それぞれの補償温度付近では磁壁移動速度が速くなるが、その中間温度では磁壁移動速度が遅くなり、結果として安定駆動できる温度マージンが減ってしまう。この点を解消できたのが今回の成果だと言える。
②電流パルス印加時間を短くすることにより、著しい速度向上が可能になった。
パルス電流を磁性細線に印加するとジュール発熱が生ずる。このジュール発熱を熱シミュレーションで確認した。パルス幅が長くなると細線中央と細線エッジの温度差が大きくなり、磁壁エネルギーに差が生ずることになる。したがって、短パルスで細線中央と細線エッジの温度差がなくなることで磁壁移動速度が向上したと考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

以下に研究成果を示すように概ね計画通りの進捗である。
GdFeCo磁性細線の磁壁移動速度を広い温度範囲で高速駆動することが出来た。
①GdFeCoのFeとCoの比率を75zt%から88at%に変え、ほとんどFeという状態にすると、高速で安定駆動が可能になった。試料ステージの温度を室温~70℃まで変えたが、磁壁移動速度は1500m/secを維持した。温度範囲を広げてもこの高速速度は維持できるものと考えている。これは、Feのg値が2.10と、Gdのそれに近い値となっている。一方、Coのg値は2.22とGdの値から離れている。これは空く運動量補償温度に効いてくる。GdとFeのg値が近いということは、角運動量補償温度と磁化補償温度が近くなる。磁壁移動速度は角運動補償温度付近で早くなり、磁化補償温度付近でも早くなる。したがって、両方の補償温度が近いほど、より磁壁移動速度が向上するため、今回の高速駆動が出来たものと考えている。また、両者の補償温度が近づきすぎるとその補償温度付近でしか磁壁移動速度は速くならない。すなわち、温度変化に対する安定性が確保できなくなる。一方、GdCoのようにGdとCoのg値が離れると、それぞれの補償温度付近では磁壁移動速度が速くなるが、その中間温度では磁壁移動速度が遅くなり、結果として安定駆動できる温度マージンが減ってしまう。この点を解消できたのが今回の成果だと言える。
②電流パルス印加時間を短くすることにより、著しい速度向上が可能になった。
パルス電流を磁性細線に印加するとジュール発熱が生ずる。このジュール発熱を熱シミュレーションで確認した。パルス幅が長くなると細線中央と細線エッジの温度差が大きくなり、磁壁エネルギーに差が生ずることになる。したがって、短パルスで細線中央と細線エッジの温度差がなくなることで磁壁移動速度が向上したと考えられる。

今後の研究の推進方策

磁壁移動速度の高速性を得るためには、希土類・遷移金属フェリ磁性材料の磁化補償温度と角運動量補償温度が近いことが効いていると仮説を立てている。そこで、GdFeCoよりもさらに両温度の近いGdFeでこの仮説を検証する。また、膜厚が薄くなると、電流印加時のジュール発熱による細線中央と細線エッジの温度差が減少し、更なる高速化が期待できる。これを検証するために、昨年度の膜厚20nmを更に薄くする効果を確認する。膜厚8nmとした先行実験では、磁壁移動速度を今回の2500m/secから5200m/secに増大できた。この詳細な実験で、この仮説を検証する。一方、高速磁壁駆動に必要な電流密度の低減検討も行う。先行研究では、Si基板に比べ、プラスチック基板上の磁性細線のほうが少ない電流密度で磁壁を駆動できた。これは、電流によるジュール発熱の影響と考えているが、先行研究では電流パルス幅が100nsecと長かった。磁壁駆動の高速化には、短パルス(3nsec)が有効で、熱シミュレーション結果によるとジュール発熱はかなり抑制されている。そうなると熱伝導の良いSi基板と熱伝導の悪いプラスチック基板の差が出にくくなることが想定される。この仮説が正しいかどうか、Si基板、ガラス基板、プラスチック基板で検証する。また、磁壁駆動にはスピン軌道トルクとスピン移行トルクの2種類が考えられているが、GdFeCoではスピン軌道トルクを担うPt層がなくても磁壁が電流方向に動く、説明が困難となる現象が起きている。すなわち、第3の磁壁駆動トルクが考えられる。それはジュール熱流とも考えられる。この熱流でスピン流が生まれ、そのスピン流のトルクで磁壁が動く可能性である。先述の熱伝導の異なる基板で電流磁壁駆動実験を行うことでこの仮説を検証する。一方、安価に磁性細線デバイスを作成するナノインプリントの検討も進める。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Strain-induced mudulation of temperature characteristics in ferrimagnetic Tb-Fe films2021

    • 著者名/発表者名
      S. Ota. P. V. Thach, H. Awano, A. Ando, K. Toyoki, Y. Kotani, T. Nakamura, T. Koyama, D. Chiba
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 11 ページ: 6237

    • DOI

      10.1038/s41598-021-85642-3

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 磁気工学スペクトルを用いた磁性層/重金属層ヘテロ構造におけるスピン軌道相互作用由来の界面効果の検出2020

    • 著者名/発表者名
      松本憩、 鷲見聡、 田辺賢士、 粟野博之
    • 学会等名
      IEEE Magnetics Society Nagoya Chapter 若手研究会
  • [学会発表] Detection of Interfacial Effects in Rare Earth Metal Doped Ferrimagnet Layer / Heavy Metal Layer Using Magneto-Optical Kerr Effect2020

    • 著者名/発表者名
      K. Matsumoto、 S.Sumi、 Kenji Tanabe、 Hiroyuki Awano
    • 学会等名
      The 65th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials
    • 国際学会
  • [学会発表] 磁性層/重金属層界面における磁気光学Kerr効果の材料依存性2020

    • 著者名/発表者名
      松本憩、 P. N. Thach、 鷲見聡、 田辺賢士、 粟野博之、 王世浩、 石橋隆幸、 斎藤伸
    • 学会等名
      第61回応用物理学会秋季学術講演会

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公開日: 2021-12-27  

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