研究実績の概要 |
磁気トンネル接合(MTJ: Magnetic Tunnel Junction)の低抵抗・高出力化はスピントロニクス分野における代表的な応用であるハードディスクリードヘッドや、不揮発性磁気ランダムアクセスメモリの構築における重要な課題である。現行MTJでは主に結晶性MgOが用いられているが、酸化物絶縁体ゆえにバンドギャップが極めて大きく、わずか3-4原子層まで薄膜化しなければ応用上重要な低抵抗領域が実現できない。本研究課題では酸化物絶縁体よりもバンドギャップの小さい化合物半導体のMTJ障壁層としての適用可能性について検討を行う。 前年度に継続して、磁気トンネル接合の作成条件について検討を行った。結果として、高スピン偏極材料Co2Fe(Ga0.5Ge0.5)(CFGG)を強磁性層として、Cu(In,Ga)Se2を障壁層として用いた磁気トンネル接合では、面抵抗積1 Ωum^2程度にて、磁気抵抗比30%以上が実現される。障壁層の上下に、0.1-0.4 nm程度のCu層を挿入すると、磁気抵抗比はわずかに減少するだけなのに対して、面抵抗積は一桁以上減少する。断面TEM観察によれば、Cuの挿入により障壁層内にCuが析出、電流狭窄パスが形成さえることが分かった。つまりCu挿入を行った場合にはトンネル接合ではなく、面直通電型巨大磁気抵抗素子として機能していることになる。 一方で、上記磁気抵抗素子の特性は、Cr/Agからなる下部電極層の結晶性に大きく依存する。特性向上を試みて下部電極の配向性を向上させると、逆に磁気抵抗比が下がるなど、不安定な挙動を示す。言い換えると下部電極の配向性が、その上に積層されるCFGGの表面に大きな影響を与えていることになる。
|