本研究の目的は、レーザー活性層に量子ドットを導入したII-VI族半導体材料を用いて、黄色波長域で動作する信頼性の高い量子ドット半導体レーザーを実現することである。これまで報告されてきたII-VI族半導体系の量子井戸レーザーの実用化を阻害した要因は、外部から注入したキャリアが再結合する際に、その近傍にある点欠陥が再結合のエネルギーにより自己増殖し、発光効率が低下することである。活性層に量子ドットを導入することにより、量子ドット内に局在した注入キャリアと活性層に内在する点欠陥との空間分離効果を用いて欠陥増殖を抑制し、信頼性の高いレーザーを黄色波長帯で実現できる可能性がある。これまでの研究で、成長中の結晶表面に電子線を照射することにより、量子ドットが形成される現象を発見していたが、本年度はその形成条件に重点をおいて研究を行った。通常の方法で作成したCdSe量子ドットは緑色(中心波長510~540nm)で発光する。この電子線照射法より形成した量子ドットは、従来の方法では実現不可能であった黄色波長域(~580nm)において、高い量子効率で発光することを確認した。さらに、電子線の照射条件を変化させることにより、緑から黄色の波長で発光する箇所を、基板上の任意の場所に作り分けることが可能となることを確認した。これを応用すると、異なる条件で電子線をストライプ状に照射してアレイ化した場所にレーザー素子のストライブ状の共振器を作製することにより、緑~黄色の多波長レーザー素子アレイを同一基板上にモノリシックに作製することが可能となる。このような多波長アレイレーザーデバイスの基本構造を考案した。以上の研究結果をまとめて特許を出願した。
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