電子線照射による量子ドットの形成過程の解明とそのレーザー発振特性に関する研究を実施した。前者については、照射領域の発光波長の面内分布に着目した。照射開始後の1~2分間で、中心波長約580nmの黄色発光する量子ドットによる一様な発光分布パターンが、未照射部の緑色発光する背景の中に生じる。この状態からさらに電子線照射を継続すると、未照射部との境界に近い場所の発光がさらに長波長シフトし、逆に照射領域の中央付近では短波長シフトすることが明らかになった。照射領域ではCd原子が成長表面内で一様に拡散するが、未照射領域では電子線による拡散効果がないと考えると、境界域にCd原子の濃度が高い領域が形成される。この境界域ではサイズの大きな量子ドットが形成されやすくなり、中央付近では逆の現象が生じることが推測できる。このことから量子ドット形成のメカニズムは、Cd原子が電子線の運動エネルギーを獲得し、成長表面上での拡散運動が活発化することに起因すると考えられる。次に利得ガイド型の端面発光素子を作製し、光励起によりレーザー発振することを確認した。BeMgZnSeクラッド層、BeZnSeガイド層、CdSe活性層から構成される光導波路構造をGaAs基板上に結晶成長し、へき開によりバー状の素子を作製した。電子線が照射されたストライプ状のパターンの位置を確認しながら、電子線照射跡に沿ってレーザー励起光を線状に照射するための光学系を構築した。素子長3mmの試料については、電子線照射有無の領域での発振波長は約555nmと約534nmであり、電子線照射により約20nm長波長にシフトした。しかしこの発振波長は、電子線照射有の場所の発光スペクトルの中心波長である580nmと比較すると、大幅に短波長側にシフトしていた。この現象は光励起強度を上げていくと発光波長が短波長にシフトする特異な現象に起因していることが分かった。
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