研究実績の概要 |
これまではBi対してアルカリ土類のBaで置換した(Bi,Ba)FeO3薄膜を検討してきたが、Ba以外の他のアルカリ土類金属であるCaやSrでの置換においても、最近検討していた。しかしながら、これらの薄膜の磁気特性が悪く、(Bi,Ba)FeO3薄膜では75 emu/cm3が得られた成膜条件で作製しても、(Bi,Ca)FeO3薄膜ではほぼゼロ、(Bi,Sr)FeO3薄膜では20 emu/cm3程度であった。これらの薄膜の構造を調べたところ、ペロブスカイト構造が形成されていなかった。よって、高品位な薄膜の磁気特性でもって、その材料のポテンシャルを判断する必要があった。初年度(令和2年度)は、これまで薄膜作製に応用されたことがあまり無い、半導体レーザー光を照射して加熱できる装置を導入設置し、真空装置外からビューポートを介して基板表面の「レーザーアシスト加熱」行い、その効果について確認した。薄膜作製装置には、もともと基板ホルダーの背面からランプヒーターによって加熱する機構があり、700℃程度までは加熱可能であったが、基板ホルダーの基板面へのレーザー照射によるアシスト加熱により、900℃程度まで加熱可能であることが判った。この手法を用い、高温成膜・成膜後アニールを施した結果、(Bi,Ca)FeO3、(Bi,Sr)FeO3薄膜いずれにおいても結晶化が確認された。そして飽和磁化は、(Bi,Ca)FeO3薄膜では20 emu/cm3程度、(Bi,Sr)FeO3薄膜では60 emu/cm3程度、(Bi,Ba)FeO3薄膜では95 emu/cm3程度、にそれぞれ増大した。レーザー照射によるアシスト加熱の効果が明確に確認されたが、CaやSrで置換した材料の磁気特性は、優れたものではなかった。また、これらの誘電特性も悪かったことから、結晶性以外の要因があると考えられ、今後の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り、半導体レーザー光を薄膜装置の外からビューポートを介して基板に照射するアシスト加熱の手法は、あまり例が無かったが、納入業者との綿密な打ち合わせを経て、薄膜作製装置にフィットするように設計設置することができた。これにより、成膜中の温度を200℃以上増大させること、それにより薄膜の結晶化を促進させること、が可能であることを明確にすることができた。これにより磁気特性が改善したことは、説明した通りである。本検証は、従来から用いて来た材料である(Bi,Ba)FeO3薄膜を用いて行ったが、本検討に並行して、 (Bi,Ba)FeO3よりも磁気特性に優れた材料薄膜の探索も行っており、(Bi,Ba)FeO3薄膜より明らかに大きな飽和磁化を有する材料薄膜、これまであまり報告されていなかった垂直磁気異方性を有する材料薄膜、の作製にも成功しつつある。これらの材料に「アシスト加熱」を行うことにより、更なる磁気特性の改善が見込め、電界印加磁気転写(強磁性・強誘電薄膜と磁性薄膜からなる積層膜において、電界を印加することにより強磁性・強誘電薄膜の磁化反転を介して磁性薄膜を磁化反転させる、本研究の代表者が提案した手法)を実現させやすくなると期待できる。
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