研究課題/領域番号 |
20H02195
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
吉村 哲 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (40419429)
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研究分担者 |
肖 英紀 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (10719678)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 強磁性・強誘電薄膜 / 電界印加磁気転写 / 高機能金属磁性薄膜 |
研究実績の概要 |
これまではBi対してアルカリ土類のBaで置換した(Bi,Ba)FeO3薄膜を検討していたが、置換元素をLaに変え、そしてFeに対するCo置換も同時に検討した。Co置換量を30at%まで増大するに伴い、飽和磁化が増大して最大80 emu/cm3が得られた。更に、Co置換量の増大に伴い、薄膜面内方向の保磁力と角型比が減少する一方で膜面垂直方法の保磁力と角型比が増大し、Co置換量が30at%において明確な垂直磁気異方性が得られた。また、そのCo置換量が30at% の(Bi,La)(Fe,Co)O3薄膜において、走査プローブ顕微鏡を用い、300 nm幅での電界印加による磁区の誘発にも成功した。(SCIENTIFIC REPORTS, J. Magn. Soc. Jpn)BiFeO3系薄膜において垂直磁気位異方性が得られた報告例は少なく、この特性はデバイス応用に極めて有用である。この垂直磁気異方性導出の要因は、(Bi,Ba)(Fe,Co)O3薄膜でのCo置換量に関する予備検討の結果や、Bi(Fe,Co)O3薄膜の文献値から、Aサイトをランタノイド元素で、BサイトをCoで、共置換することによるものと推察される。 磁気メモリ用材料として有望なスキルミオンを生ずる材料において、そのスキルミオンサイズを小さくするために、代表的なスキルミオン材料であるベータMn型Co-Znにおいて、種々の量でのFe置換を試みた。メカニカルアロイ法により作製することにより、単相型のベータMn型Co-Zn-Feを合成することに成功し、かつ、Feの置換量によってその置換サイトが8cサイト(Co)か12dサイト(Co/Zn)か変化すること、そして8cサイトへのFe置換が、キュリー温度に大きな影響を与えることが判った。これらの結果は、材料のスキルミオンサイズの設計に有用な情報となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年実証された物理現象および高機能な磁性薄膜を用いた、新規に提案されている革新的な次世代磁気デバイスは、高密度化・高集積化されることが想定される結果、デバイス全体において、磁化反転における大きな消費電力・磁化反転素子における複雑かつ微細構造化、などが懸念される。一方で近年、室温で強磁性・強誘電特性を有する材料が発見され、申請者は、(Bi,Ba)FeO3薄膜の高品位作製および電界印加のみによる完全磁化反転の実証にさきがけて成功している。本研究では、更に良好な磁気特性を有する強磁性・強誘電薄膜を作製し、それに高機能な磁性薄膜を成膜した積層膜において、電界を印加することにより強磁性・強誘電薄膜の磁化反転を介して高機能磁性薄膜を磁気転写させる更に新しい手法の基礎的な検証を行い、最終的に超低消費電力かつ簡略な素子構造を有する更に革新的な次々世代磁気デバイスの実現を可能にする手法を確立することを目的としている。そのためには、大きな飽和磁化、垂直磁気異方性、大きな磁気Kerr効果、を有する、強磁性・強誘電薄膜材料および金属磁性薄膜材料の探索、高品位作製、それらの積層膜の作製、などを行う必要がある。薄膜の高品位作製には、高温での成膜や成膜後のアニールなどが、薄膜の磁気特性の向上には、置換元素の役割の解明とその種類と量の最適化などが、効果的である。本研究では、まず初年度(令和2年度)に、真空装置外からビューポートを介して基板を加熱できる、レーザーアシスト加熱機構を導入し、その効果について確認したところ、従来用いてきた(Bi,Ba)FeO3薄膜において、飽和磁化が75 emu/cm3から95 emu/cm3に増大した。そして次年度(令和3年度)には、(Bi,La)(Fe,Co)O3薄膜において、Coの磁気特性に及ぼす役割を解明し、これまであまり報告の無かった、垂直磁気異方性の導出に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
新しい手法である反応性パルスDCスパッタリング法を用いて磁気特性に優れた(Bi,A)(Fe,B)O3薄膜を作製するにあたり、「研究実績の概要」に記載した通り、Aサイトの置換元素をLaに、Bサイトの置換元素をCoにすることで、ある程度の飽和磁化を有しながら垂直磁気異方性および比較的大きな磁気Kerr効果が得られ、特徴的な特性である垂直磁気異方性導出の要因はLaとCoの共置換である可能性が高いことが判った。これらの結果をふまえ、今年度は、La以外のランタノイド元素(Nd, Sm, Gd, Dy, Er等)でのAサイトの置換、Co以外の遷移元素でのBサイトの置換について検討し、更に大きな垂直磁気異方性および磁気Kerr効果の導出を目指す。また、垂直磁化の金属薄膜、高スピン分極の金属薄膜、巨大磁気Kerr効果の金属薄膜、などを作製し、これと上記の強磁性・強誘電薄膜との積層膜を作製し、磁気転写のデモンストレーションを試みる。 超高密度磁気メモリ用材料として有望視されている小さいサイズのスキルミオンを生ずる材料を探索するにあたり、メカニカルアロイ法により合成した種々の組成のCo-Zn-Fe合金材料について、ローレンツ電子顕微鏡観察によるスキルミオンの発生の有無およびそのサイズそしてキュリー温度に対するCo組成およびFe組成の依存性を調べ、スキルミオンサイズを小さくするメカニズムについて検討するとともに、超高密度磁気メモリ応用に適する材料を特定する。
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