研究課題
2020年度は、低損失Ge光導波路を実現するための研究を進めた。導波路損失の要因は導波路側壁荒れによる散乱に加えて、Ge-on-insulator (GeOI)基板中の残留キャリアによる自由キャリア吸収が考えられる。従来手法で作製したGeOI基板では、作製時に発生した結晶欠陥によりホールが発生し、自由キャリア吸収の要因となっていた。そこで、自由キャリア吸収が小さいn型GeOI基板の実現を目指した研究を進めた。結晶欠陥は基板剥離に必要となる水素イオン注入時に発生することから、イオン注入エネルギーを高くし、デバイス層となる基板表面から十分に離れた深い領域に水素を注入することを検討した。断面電子顕微鏡などで結晶欠陥分布を評価した結果、注入エネルギーを倍の160 keVにすることで、デバイス層となる表面近傍(深さ300nm程度)において結晶欠陥が大幅に減少することを見出した。この結果、GeOI基板中に含まれる結晶欠陥起因によるホール生成を抑制し、電子濃度が極めて低いn型GeOI基板の作製に成功した。作製したn型GeOI基板を用いて光導波路を作製し、導波損失の評価を進めた。この結果、導波損失を従来よりも約10分の1まで低減することに成功した。また、GeOI基板上にキャリア注入型光変調器を作製し、Ge中における自由キャリア効果の評価を進めた。これまでの自由キャリア吸収に加えて、GeOI基板上で初めてキャリア注入によるプラズマ分散効果の評価に成功するとともに、理論予想と結果が一致することを明らかにした。これにより自由キャリア効果を用いた光デバイス設計の指針を得た。結晶欠陥を用いた受光器についても動作原理の考察を進め、真性キャリア密度が大きいことでSiよりも高い受光感度が得られる可能性があることを明らかにした。またフォトトランジスタとして動作し、受光感度が一層高めらえることも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は、大規模光集積回路を実現する上で大きな課題となっていたゲルマニウム光導波路の損失低減に成功した。これによりセンシングを実現する上で必要となる種々の導波路素子を実現する道筋を立てることができたことから、おおむね順調に研究は進展していると言える。
今後は低損失ゲルマニウム光導波路を用いて、スパイラル導波路などセンシングに必要となる各種導波路素子の実現に向けた研究を推進する。また結晶欠陥準位を用いた受光器も実現できていることから、光変調器と組み合わせてセンシングに応用する検討も進める。加えて、動作波長帯域を拡大するための検討も推進する。光源や使用する光ファイバ、チップと光ファイバとの結合方法を検討し、センシングに適した波長帯域での動作を目指す。
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レーザー研究
巻: 48 ページ: 535-539
https://sites.google.com/g.ecc.u-tokyo.ac.jp/takenaka-lab/