半導体上で電子と正孔が同時に存在する多体系(電子正孔共存系)では、その密度と温度に依存して励起子、プラズマ、液滴といったさまざまな相が形成され、基礎多体系物理の観点から注目を集めている。特に極低温下における励起子は、量子凝縮すると超流動へと転移することが理論的に証明されており、これを電子デバイスへ応用する研究が様々な材料・構造を用いて盛んに進められてる。本研究課題では、エレクトロニクスへの応用上、特に重要となるシリコン・トランジスタにおいて、電子正孔共存系の形成技術を確立することを目的としている。本年度は、電子正孔共存相の詳細解析を目的として再結合過程の実時間観測を実施した。 昨年度までに、低温下10ケルビンにおいてシリコン・トランジスタのゲートをパルス電圧を用いて制御することにより、電子と正孔を同時に存在させることに成功した。そして、その電子と正孔の密度がゲートパルス電圧のパラメータにより独立に制御できることを確認した。また、電子と正孔の層間距離が約5ナノメートルと極めて近接していることを明らかにした。これらの結果を踏まえて本年度は、電子正孔再結合過程の直接観測を実施した。具体的には、高速電流アンプを用いて再結合電流の時間変化を調べた。その結果、数100ナノ秒程度のランダムで早い再結合を経て、1マイクロ秒程度のゆっくりとした再結合に切り替わっていることが示唆され、このことから量子凝縮で重要となる電子と正孔が強く束縛した励起子が生成されている可能性があることを結論づけた。
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