研究課題/領域番号 |
20H02204
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
高橋 一浩 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90549346)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 架橋グラフェン / NEMS / マルチモーダルセンサ / 共振器 / 化学センサ |
研究実績の概要 |
①共振特性の向上 グラフェン共振器の共振特性向上に向けて、架橋グラフェン上に形成したフォトレジストパターンの熱収縮を利用し、架橋グラフェンへのひずみ印加を試みた。製作デバイスを300 ℃で10分間加熱し、加熱前後で架橋グラフェンから得られるラマンシフトを評価した。グラフェン固有のスペクトルピークであるGピークと2Dピークに注目すると、Gピークは-4.2cm-1、2Dピークは-7.3cm-1低波数側へシフトしたことから、0.27%の引っ張りひずみが印加されていることが示唆された。次に加熱前後における共振周波数変化をレーザー加振法により評価した結果、共振周波数及びQ値共に25%の向上が確認された。ひずみを印加した架橋グラフェン上にCOVID-19のスパイクタンパク質を特異吸着する抗体を固定化し、スパイクタンパクの質量計測を行った。処理前の共振周波数が 12.22 MHz、抗体固定化後の共振周波数が10.26 MHz、そしてスパイクタンパク質抗原吸着によって7.75 MHzの共振周波数が得られ、分子が架橋グラフェン上に吸着するごとに共振周波数が低下する結果が得られた。 ②ウイルスの選択的検出と飛沫中の検出 ウイルスの特異的検出に向けて、ヒトインフルエンザに特異的に吸着する6’-sialyllactoseをポジ用に、トリインフルエンザのレセプターである3’-sialyllactoseをネガ用として修飾した。非特異吸着を防ぐためブロッキング剤としてメトキシポリエチレングリコールピレンを修飾し、最後に1.6HAUの不活化インフルエンザウイルスをスプレーにより飛沫状に噴霧して反応させた。ウイルス処理前後での共振周波数の変化量を評価し、ポジティブコントロールでは700kHz低下し、ネガティブコントロールでは400kHzの周波数の低下が確認され、有意差が示せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元材料を用いたNEMS共振器は、従来のSi-MEMS共振器とは異なり、可動膜に引張ひずみを印加することによって共振特性を向上することができる。本課題においては、溶液処理による表面の化学的機能化を可能とするキャビティ封止構造においてグラフェンにひずみを印加することに成功し、ひずみが印加された状態においても分子の特異的検出および質量計測が可能であることが実証できた。一方で文献に示されていた数値と比較すると、共振周波数およびQ値共に増加率は小さかった。したがって、グラフェンを転写後に、ポストプロセスによって印加するひずみ量には限界があるという結論に至ったため、次年度では転写プロセス中にひずみを印加するプロセス技術を検討する。 次に、選択的な分子認識界面を目指し。架橋グラフェン表面を糖鎖とポリエチレングリコールによって機能化し、選択的なウイルス検出を実現した。これまでに検出を行った分子はタンパク質抗原、ヒトインフルエンザウイルス、COVID-19のスパイクタンパク質であり、提案センサの汎用性の高さを示すことができた。 MEMS/NEMS型共振質量センサは溶液処理を介さずに空気中でセンシング動作が可能な点がISFET型や酵素反応型などの従来のバイオセンサと異なる特徴を有している。この特徴を実証するため、スプレーを使って不活化インフルエンザウイルスを飛沫状に噴霧して実験を行い、グラフェンを振動膜に用いた共振センサにおいても空気中での分子検出に成功した。この成果は空気感染するCOVID―19を含めたウイルスを感染前に可視化する技術につながる成果である。 以上より、ひずみ印加によるセンサの特性向上と、分子の選択的検出、および空気中での分子質量測定を達成したことから、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
①ビルトインひずみ膜の転写プロセス:2次元膜の架橋構造を利用したNEMSセンサは、吸着分子の力学量変化に対して超高感度に応答することができる一方で、質量が小さく慣性力が低いという特徴から環境の粘性に影響を受けやすい。結果として、振動の質を表すクオリティファクターが極端に劣化する。Q値の向上に向けて、これまでは架橋グラフェン上にフォトレジストをパターニングし、レジストの収縮を利用して数十パーセントのQ値向上が得られた。グラフェンへ印加するひずみ量を増大するため、グラフェンに引張歪みを印加した状態で転写を行い、転写時にビルトインひずみを加えるプロセス技術の検討を行う。転写された架橋グラフェン中のひずみ量をラマン分光法により定量評価し、ひずみ量と共振特性、および表面応力特性の関係を調査する。 ②オンチップ分子計測技術の開発:外部測定機器を用いずにICチップ上で分子計測を行うことを目指し、CMOS集積回路と架橋グラフェンセンサの集積化を行う。表面応力測定用には透過光強度の変化の計測が求められるため、CMOSイメージセンサの画素構成を応用した回路構成を用意する。共振質量測定用には、グラフェン共振器の共振周波数は10-50 MHz程度のため、pnフォトダイオードでは計測困難な速度であることからPINフォトダイオードの一体化を検討する。 ③応力・質量マルチモーダル測定:ひずみを印加したマルチモーダルセンサと無ひずみの状態のセンサを用意し、応力感度と質量感度の評価を行う。モデル分子として腫瘍マーカーのPSAやCOVID-19の重症化予測の利用に期待されているCCL-17などを検討する。
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