本研究では超伝導量子細線でおきる量子位相すべりを用いて、高集積化への対応や応用範囲が拡大できる可能性を持つ超伝導量子素子を実現する。超伝導量子回路としてジョセフソン接合が基本素子として用いられているが、集積規模や性能がジョセフソン接合のサイズに依存することが従来からボトルネックであった。そこで自己双対な関係によってジョセフソン接合と同様な動作でき、集積化に有利かつ新たな動作原理による超伝導量子細線素子を使った量子ビットと電流標準の実現に向けた素子開発と実証を行う。今年度はMgO基板上に作製したNbTiN膜を用いて、位相すべりの検証を行った。検証の結果から細線の幅が100nm以下になると超伝導転移がブロードとなり、位相揺らぎの影響が顕著になることが明らかになった。 さらに細線幅をさらに細くし、コヒーレンス長の数倍程度まで細くすると極低温側で量子揺らぎの理論で予想される抵抗の温度依存性を示した。この細線に磁場を印加すると量子位相すべりが抑制され、磁場によって超伝導が増強されるような効果も見られた。さらに我々は22nmの細線の途中に100nm角の部分をいれて磁場を印加し、量子位相すべりが抑制された状態と磁束が局在化した状態を想定して、その振舞を調べた。結果として名の細線のみでは量子位相すべりの抑制にともなう磁気抵抗の振舞に加えて、6T付近で磁気抵抗の極大が観測された。次に100 nm角の部分を導入した構造では磁気抵抗の抑制に加えて、リトルーパークス振動と思われる磁気抵抗振動に加えてその磁気抵抗の振動がステップ上に変化している現象を観測した。これらに関して誌上発表の準備中である。
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