研究課題/領域番号 |
20H02239
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
内村 太郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60292885)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 斜面防災 / モニタリング / 早期警報 / 崩壊予測 / 不飽和土 |
研究実績の概要 |
本研究では、①豪雨時の崩壊前兆のメカニズムを考慮した斜面の状態把握の方法と警報基準の検討、②弾性波を用いた斜面表層の状態変化と初期変位の検出 に ついて、材料実験、模型実験と実斜面の観測で検証する。 ①は、斜面表層が崩壊する前に微少かつ加速的に変形する様子をセンサーで監視して、早期警報に役立てようという試みである。2021年度は、主に1層の小型一面せん断試験機を行い、すべり面への雨水の浸入に伴って変形が侵攻し破壊する過程を、従来の崩壊予測手法と見比べながら検証した。特に、このような水分量の変化を伴う実験で常に問題となる、試料への注水の均一性について、詳細に調べた。また、これまでの斜面の観測事例を収集し、斜面表層に挿した鋼棒の傾斜(表層のせん断変形)と崩壊までの残余時間の関係を整理した。 ②は、降雨によって斜面の表層地盤が軟化したり、歪んだりする状態を、弾性波の伝わり方の変化を使って検知して、早期警報に役立てようという試みである。これまでの研究で、表層に雨水が浸入したとき、およびせん断変形が生じたとき、それぞれ弾性波速度が有意に低下することが分かっている。2021年度は、一面せん断試験機を改造して、試料(厚さ20mm)内を伝わる弾性波を測る装置を開発し、砂の圧縮とせん断に伴う弾性波速度の変化を観察した。 さらに、2022年度に予定されている、実斜面での人工降雨による崩壊実験について、実験計画を議論し、必要な機材を選定し、購入、作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①斜面表層が崩壊する前の微少で加速的な変形については、小型一面せん断試験機を用いてすべり面への雨水の浸入に伴って変形が侵攻し破壊する過程を観察したが、特に2021年度は、精確な実験の前提となる試料への注水の均一性について、詳細に調べた。試料には、上下端面から注水、排水を行うが、せん断は試料の中央で行われ、せん断面での実際の水分量を直接測ることはできない。そのため、崩壊前の水分量の増加と変形の進行の関係を検討する本研究では、精度の高いデータを得るための障害になっている。試料のせん断を行わず、下面から一定量の水を注水した段階で、試料を上面から2mmずつ削り取り、各高さの水分量を測定した。また、青く着色した水を使い、各高さで撮影した画像から、平面的な水分量分布を観察した。結果として、試料が最初からいくらかの水を含んだ状態から始めれば、ほぼ均一に水が入ることが確認された。 また、これまでの斜面の観測事例の整理からは、斜面表層の変状を地面に挿した鋼棒の傾斜(表層のせん断変形)で測定した場合、その速度と崩壊までの残余時間の間に明確な関係が見られた。さらにその関係は、地すべり、表層すべり、崖崩れなどの形態に応じて、異なる傾向を示した。 ②弾性波を用いた斜面表層の状態変化と初期変位の検出 については、一面せん断試験機を用いた実験で、乾燥砂のせん断過程の弾性波速度の推移を観察することができた。弾性波速度は、載荷開始からせん断応力がピークを迎えるまでは低下し、その後、せん断応力が残留強度に落ちるまではほぼ横ばい、その後の残留状態では、減少するという傾向が見られた。 実斜面での人工降雨による崩壊実験は、2022年3月に予定されていたが、実験用地を提供する協力者の事情により、用地取得が遅れて2022年5月~6月に実施することになった。しかし、実験の実施方法の検討や計測の準備は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
①豪雨時の崩壊前兆の機構に基づく斜面の状態の把握と警報基準の決定: 1,2 年目に続いて、せん断土槽で斜面表層を模擬する実験を行う。主に小型の一面せん断試験機を用いて、せん断破壊前の変位の進行を、より多様で精密に制御された条件で測定する。これまでの砂質土での実験では、せん断応力が強度に達すると急に破壊する傾向があり、時間とともに変位が進行する様子を観察するのが難しかった。2022年度は、硅砂にカオリンなどの細粒分を混ぜた試料を使って、破壊前の変位を測定しやすくする。 次に、傾斜データに基づく崩壊時刻の予測式を検討する。これまでに、崩壊前の加速過程で、傾斜角と地表の変位とが比例する関係を見いだしており、これを従来の変位に基づく予測式に代入すると、傾斜データに基づく予測式を得られる。本研究では、多層せん断模型、一面せん断模型、および現場の実測データを使って、様々な土質、大きさ、傾斜の斜面で予測式を検証する。 ②弾性波を用いた斜面表層の状態変化と初期変位の検出: 2年目につづいて、一面せん断供試体内のサクションと弾性波伝播を同時に測定できる装置を用いて、水浸とせん断応力・変形による弾性波伝播特性の変化をさらに様々な条件で調べて、その仕組みを解明する。 ③実斜面を人工的に崩壊させ、崩壊前の変位を詳細に測定し、崩壊時間の予測と早期警報の技術を開発する実験を6月に実施する。崩壊前の変位を、伸縮計、傾斜計に加えて静止画による画像解析でも観測し、予兆変位に関する上記の結果を検証する。また、斜面地盤内に弾性波の加振装置と受信機を埋め込み、崩壊前の地盤内弾性波速度の水位を観測して、上記の室内実験での検討結果を検証する。
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