研究課題
本研究は,中小河川の水位を常時高精度に予測し,流域の治水・利水に直接的に貢献できる技術を開発することを目的としている.これに向けて,①降水量・水位データを用いた流域内の主要な降雨流出過程の逆推定・モデリング手法の確立,②試験流域における本手法の妥当性の検証,③実流域における水位予測精度の実証試験の合計3点に本研究は取り組むことを計画している.2020年度は,「①降水量・水位データを用いた流域内の主要な降雨流出過程の逆推定・モデリング手法の確立」に取り組むことを計画し,研究に着手した.一般に河川流量は,過去の河川の水位と流量を同時に測定して両者の関係式を作成しておき,河川の水位データだけを常時測定することによってその水位に対応する流量データを作成し,これを観測流量としている.しかし,中小河川においては水位と流量の関係式を作成するデータの更新頻度が低く,信頼性が大河川に比べて劣る場合がある.また,そもそも水位だけを常時測定し,水位と流量の関係式を作成していない河川もある.これらの問題が存在することを背景として,本研究はまず水位と流量の関係を規定する水位流量曲線の不確実性が大きくても,水位予測を高精度に行える可能性を検討した.具体的には,まず仮想の水位流量曲線を作成して実測水位から仮想流量を推定して,降雨流出モデルを作成した.次に,そのモデルに降水量を入力して流出計算を行い,計算した流量データを仮想の水位流量曲線に再度入力することで観測水位の再現性を検証した.降雨流出モデルは,研究代表者が開発した降雨流出過程の逆推定・モデリング手法を利用した.その結果,仮想の水位流量曲線を用いても,高精度に水位を推定できることが分かった.
2: おおむね順調に進展している
2020年度は,コロナ禍によって突然の業務増加があったにも拘らず,中小河川のデータ解析や降雨流出モデリングなど,研究計画に沿って研究を進めることができた.また,共同研究者により,高精度の水文観測が行われている桐生水文試験地のデータの整備が完了した.一方,本研究の成果を論文にまとめて報告することはできなかった.以上の状況を踏まえ,「おおむね順調に進展している」と判断した.
2021年度は,2020年度に揃えた研究成果を研究論文として取りまとめ,学術雑誌に投稿することを計画している.また,水文観測試験地におけるデータを利用して,降雨流出過程の逆推定法および仮想水位流量曲線の利用可能性を検討し,実河川への手法適用に向けた準備を進める予定である.
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