研究課題/領域番号 |
20H02252
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鼎 信次郎 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (20313108)
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研究分担者 |
寺尾 徹 香川大学, 教育学部, 教授 (30303910)
横井 覚 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(大気海洋相互作用研究プログラム), 主任研究員 (40431902)
福島 あずさ 神戸学院大学, 人文学部, 准教授 (40634209)
高橋 洋 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 助教 (50397478)
藤波 初木 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 講師 (60402559)
杉本 志織 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), 研究員 (90632076)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大気陸面相互作用 / 季節内変動 / 湿潤アジア |
研究実績の概要 |
幾つかの代表的な成果について述べる。 まず、2015 年に行われたPre-YMC 集中観測で得られたデータと領域気象モデルを用いて、マッデン・ジュリアン振動(MJO)によるスマトラ島の日周期対流活動の変質を調べた。MJO 対流活動活発期の到来前に午後及び深夜に活発化していたスマトラ島上の日周期対流活動が、MJO 活発期には抑制されたことを確認した。 また、ディープラーニングとビッグデータを用いることによって、地表面情報がアジアの1か月から数か月の降水量予測に与える影響を調べ始めた。 また、バングラデシュにおける人間活動に起因する土地利用変化が広域の水文過程に与えうる大きなインパクトと、それに伴う水文気候プロセスの変化を明らかにした(Huda et al. 2021)。 また、ヒマラヤ山脈の斜面や山麓での夏季に夜間降水の分析を行った。再解析データと水平解像度2kmの数値実験を用いて、夜間降水が発生する物理的要因を調べ、総観場スケールでは深夜から朝にかけて多くの水蒸気がヒマラヤ山脈に輸送されたことを突き止めた。 加えて、2019年のヒマラヤ東部で観測された豪雨の発生過程に関する研究を行った。ネパールヒマラヤ東部のロールワリン地域Dongang(標高2800m)で2019年7月8~9日にかけて日降水量が100mmを超える豪雨が観測された。両日にかけて、ヒマラヤ山脈の南にモンスーン低気圧が存在し, 下層から中層にかけて湿った南風がロールワリン地域にもたらされていた。この水蒸気輸送により斜面に沿って東西にのびる帯状の降水帯が形成され、斜面上を北進した。その中で発生した積乱雲がロールワリン地域を通過したことにより豪雨が発生したことがわかった。斜面での降水帯の発達には, 夕方にかけての斜面加熱による大気成層の不安定化と斜面による強制上昇が重要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の予定の4分野について、詳述しない部分についても、それぞれ研究を行った。具体的には、南アジアから東南アジアにおいて、各国気象局と共働し、地上気象観測データならびに、高層気象観測、降雨レーダ等の観測データを幅広く収集し始めている。これにはAsiaPEXという国際的な枠組みが大きく役立っており、当研究のメンバーが中核をなしている。また、水平解像度2km程度の雲解像モデルを用いた数値実験によりネパールやインド北部における降水の日変化に対する山岳地形や陸面条件の影響を調べる研究も継続しており、成果が出つつある。 また、海大陸の季節内変動については、上記のように、2015 年に行われたPre-YMC 集中観測で得られたデータと領域気象モデルを用いて、マッデン・ジュリアン振動(MJO)によるスマトラ島の日周期対流活動の変質を調べた。MJO 対流活動活発期の到来前に午後及び深夜に活発化していたスマトラ島上の日周期対流活動が、MJO 活発期には抑制されたことを確認した。次年度は、熱帯西部北太平洋での北半球夏季季節内振動(BSISO)に伴う総観規模擾乱の発達メカニズムについて、経年規模での太平洋-日本(PJ)パターンの位相に分けて調査をする予定である。西部北太平洋上で特に活発な対流活動がみられる正のPJ 年では、BSISOに伴う対流活発偏差も同海域で特に顕著となるため、この分析を主に行う予定である。 また、ヒマラヤ山脈の斜面や山麓についての研究においては、狭域スケールでは、地形の影響に加えて、地表の夜間冷却に伴って発生した下降風が水蒸気収束を促進し、ヒマラヤの斜面や山麓に夜間降水をもたらしていることを発見した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、上記の海大陸の研究の続行を行う。 次に、インドにおける降水システムについての研究を推進する。強い降水について、その空間構造を調べて、長期的な変化を調べる。近年は温暖化で強雨が増える一方で、平均雨量が減っているインドだが、強く空間スケールの大きい降水システムが、より大きくなっている傾向が見られる可能性がある。 また、深層学習を用いたアジアの大気陸面相互作用についての調べを継続する。CMIP6の大規模気候データセットから訓練データセットを作成し、深層学習手法であるViTあるいは類似手法によって長期降水予測モデルを学習する。Attention機構により変数の空間分布上の重要度を可視化できることが最大の特徴となる予定である。これにより、CMIP6データ内の利用可能な海面水温・土壌水分や蒸発散量などの複数の変数から長期降雨予測に最適な入力データセットを、抽出することが可能となる。現実とのバイアスを含んでいる面については、学習済みモデルを再解析データや観測データといったより現実に近いデータで転移学習することで、深層学習モデルがバイアスの問題を解決したい。 また、ヒマラヤ山脈の斜面や山麓での夏季に夜間降水について、再解析データと水平解像度2kmの数値実験を用いての物理的メカニズムの探求を継続する。
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