本研究では、河川の樹林化課題に対して、近年頻発する豪雨災害に鑑み、「早急に対処しなければならない樹林化」と「残しておいても大丈夫な樹林化」を合理的に判別する河川技術を検討した。最終年度の研究実績は以下のようである。 1)現地観測・分析手法:コロナ禍のため、最終年度も鬼怒川の一部区間に限定し、秋季に樹林化河道の経年変化調査とドローンによる空撮計測を行った。それと並行して、2015ー2019年において鬼怒川でドローン空撮した総計51の河道オルソ画像を整理し、前年度までに開発してきた深層学習による河川地被状態の自動判別モデルを適用させた。その結果、これまで困難であった礫・砂および木本・草本の分類が可能になり、2015年洪水後の植生再繁茂、2019年洪水後の礫河原再生過程が定量評価された。 2)解析モデル:土砂水理学ベースの決定論的モデルでは、洪水や人為的な植生伐採後の樹木再繁茂過程を組み込みモデルを拡張した。また、モデル検証および再現性確認のため、近年、植生伐採や高水敷の切り下げが実施された長良川中流域を対象に、河道地形、植生繁茂状況の長期変化について、地形データ収集・分析、航空写真分析を実施した。長良川中流域を対象とした再現計算を実施し、開発モデルによって洪水流による河道地形・植生変化や人為的な伐採後の植生回復状況を概ね再現できることを確認した。一方、洪水インパクトや植生進入の不確実性を考慮した数理生態学ベースの確率論的モデルでは、前年度にコーディングした解析対象断面への植生の侵入・成長・流失プロセスの精緻化モデルを用いて、河道複数断面において洪水インパクトの違いによる樹林化傾向と治水安全評価の分析を行なった。その結果より、早急に対処しなければならない樹林化河道と、残しておいても大丈夫な樹林化河道の判断基準に関して、確率論的植生消長モデルを用いた確率論的評価手法を確立・提案した。
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