研究課題/領域番号 |
20H02269
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
屋井 鉄雄 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (10182289)
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研究分担者 |
福田 大輔 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 特定教授 (70334539)
平田 輝満 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 准教授 (80450766)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | *エネルギー統合型道路 / 拡張道路インフラストラクチャ / メンタルエンベロープ理論 / 自動運転公共交通システム / 次世代モビリティ |
研究実績の概要 |
*本研究は、技術イノベーションを通じて道路インフラの各種要素・機能が再構成されたARI(拡張型道路インフラ)を構想し、そのため特にエネルギー要素を最大限活用する新たな道路システムを対象にして、道路、モビリティ、エネルギーの各々に着目して、各々が適切に共進化するための技術的・社会的条件を学術的に明らかにすることを目的として研究を推進している。目的を達成するため、ARIと人々との関係性の変化を、技術導入の影響と人々の価値観変化等に着目して分析し、人間と調和するエネルギー統合型道路の計画デザインとしてあるべき姿を明確化するための基礎的な検討の実施途上にある。従来の研究ではあまり着目されない一般道路に改めて着目し、道路施設を要素分解した上で道路機能を総合的に再構築し、今後の道路インフラ・空間に斬新な価値を与え、その過程で現れる道路インフラ、エネルギー、モビリティ、人間の各課題を横断的に研究して初年度ながら一定の成果を挙げている。 具体的には、ARIに関わる要素技術を整理した上で諸外国の最新の開発事例を体系的に整理して報告書にまとめている。また、メンタルエンベロープ理論を新たに構築し、その受容可能性をアンケート調査を通してほぼ明らかにし、論文投稿を行っている。統合道路環境エネルギーシミュレータの整備についても、その原型は概ね完成して、既に簡単なシミュレーションを実施している。これらの研究の入力パラメータとなり得る情報を提供可能な関連研究についても、既にいくつか成果を公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
*【エネルギー活用によるARIと技術動向を踏まえた将来展望】ARIの概念構築を行いその構成要素を複合的に活用する開発目標を明らかにするため、防災・安全・環境・快適・景観・高齢者対応等への効果を、機能・性能・量産効果等の観点から、内外の技術動向調査を行い結果をレポートにまとめた。なお、エネルギー統合型ARIの構成要素・機能には、道路上の太陽光・風力・圧電などの発電システム、蓄電池活用、EV等への給電、照明機器の複合化、街路樹育成改善や洪水管理などを想定している。 【統合道路環境・エネルギーシミュレータの開発】未来のモビリティシステムが既に多数構想されているが、エネルギーシステムとの親和性が高く、道路インフラを統合的にデザインしたシステム提案が十分でないことから、道路内エネルギー網の活用効果をモビリティシステムと同時に検証可能な統合道路環境・エネルギーシミュレータの開発を進めている。一般EV保有世帯の通勤行動と売買電とを同時に考慮したモデルを内包し、道路と自動運転公共交通にエネルギーインフラを結合したシステムに対するシミュレーション分析を、車両サイズ、給電の区間・方法等を考慮して実施している。 【メンタルエンベロープ理論の構築】歩道や歩車混在の道路空間で、低速自動移動体を含む様々な主体間での通行の優先順位や移動上の制約条件、あるいは空間配分の原則等を理論的に検討しておくことが、将来に向けて重要と考えられる。そこでFloridiのエンベロープ理論を独自に展開し、移動体側の物理的エンベロープと人間の持つ心理的エンベロープの2つの存在を新たに定義し、それらの相互関係を考慮した空間利用概念を構築し、優先関係や空間配分の基準づくりの基礎を構築した。理論研究を通して問題を構造化した上で、意識調査データを用い構造方程式モデリングによる分析で理論の補強を図った。
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今後の研究の推進方策 |
*①道路利用者の視点からみたARIの受容性分析:高齢者の外出歩行促進による健康増進が期待されるが、日本の都市部で回遊性に優れた歩行空間は未だ少なく、若者世代の外出行動は経年的に減少し、長期的悪影響も懸念される。そのため、ARIが歩行環境の魅力を下げず、「歩きたくなる」、「外出したくなる」空間を形成できる条件を検討する必要がある。そこで、将来のARIの空間イメージを被験者に提示し、被験者のARIに対する受容意識を把握し、コンジョイント分析等を活用して要素・機能の統合に対する評価構造を明らかにする。 ②統合道路環境・エネルギーシミュレータの整備と影響要因の分析:統合道路環境・エネルギーシミュレータの改善を図り、道路と自動運転公共交通にエネルギーインフラを結合したシステムの評価を進めるとともに、自動運転公共交通システムの性能を左右する要因の分析を行う。一般車両との混在で自動運転が性能を発現できない懸念は既に指摘されているが、自動運転を無条件で優先することに社会の理解が得にくい状況も想定される。①手動運転者の意図的挙動、②高齢運転者等の意図的でない挙動でも公共交通の妨害や性能低下を誘発する可能性等をDSを改修することで実施する。 ③メンタルエンベロープ理論の構築とシミュレータの構築:低速自動移動体を含む様々な主体間での通行の優先順位や移動上の制約条件、あるいは空間配分の原則等を理論的に検討するため新たに提案したエンベロープ概念の受容可能性の確認の後、道路のARI化の進展に伴い自動運転公共交通や低速自動移動体が普及した状況で、物理的エンベロープ次第で歩行者、低速モビリティ等の危険意識や順応行動等が有意に変化する可能性を想定し、メンタル・フィジカル2つのエンベロープ状態を分析可能なシミュレータを開発し、複数の移動体を登場させる環境下でシミュレーション実験を行う。
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