研究課題/領域番号 |
20H02283
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古米 弘明 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40173546)
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研究分担者 |
春日 郁朗 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20431794)
栗栖 太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30312979)
高田 秀重 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70187970)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 環境質定量化・予測 / 合流式下水道 / 雨天時汚濁制御・管理 / 健康リスク / 都市沿岸域 |
研究実績の概要 |
神田川や隅田川の河口から台場周辺海域における水質調査の実施 晴天時に1回、降雨1日後に6回の採水(9地点)を実施して、糞便細菌指標や大腸菌ファージだけでなく、汚水マーカーとして医薬品類、アルキルベンゼンの水質測定を行った。降雨後の糞便指標や汚水マーカーの濃度上昇空間分布データを蓄積した。また、雨天時と晴天時において、大腸菌のセフォタキシム耐性率を評価した。耐性大腸菌の濃度は雨天時の方が高いが、耐性率については晴天時の方が雨天時よりも高いことが明らかになった。 都市沿岸域における雨天時越流水による汚染実態の把握 雨天時越流水による汚染の広がりやその拡散や減衰に関連して、沿岸域の懸濁物と堆積物を分析し、堆積物の巻き上がりの寄与を評価した。巻き上がる可能性ある表層堆積物を採取し、直鎖アルキルベンゼンの分析を行った結果、堆積物中のアルキルベンゼンの異性体組成I/E ratio(酸化的分解により大きくなる)は、2~3.4であり、未処理下水(I/E ratio 1程度)と比べて、高く、下水二次処理水に近い値であった。雨天時越流発生時の河口域水柱の懸濁物への堆積物巻き上がりの寄与は小さく、雨天時越流水の寄与が大きいことが確認された。 糞便汚染指標微生物と医薬品類の消長実験 流入下水由来の糞便汚染指標微生物について,塩分と太陽光による不活化実験を実施した。F特異大腸菌ファージが塩分と太陽光,大腸菌,糞便性大腸菌群,腸球菌が太陽光による不活化の影響を受けた.塩分影響下での太陽光による不活化の影響は,大腸菌>糞便性大腸菌群>腸球菌>F特異大腸菌ファージの順であった.一方で体表面吸着ファージには不活化影響は認められなかった.また、生物分解性の異なる5種類の医薬品について、太陽光による分解速度測定実験を実施したところ、共存難分解性溶存有機物が光分解を促進させる可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のなか、晴天時1回、降雨後6回の現場採水調査を実施した。糞便汚染細菌指標に加えて、ウイルス指標として二種の大腸菌ファージ、さらに、汚水マーカーとして医薬品類、糞便ステロール、アルキルベンゼンなども含めて、多項目の水質結果を得たことで雨天時越流水に伴う汚染現象を多面的に評価できる成果となった。また、隅田川河口、レインボーブリッジ、お台場海浜公園においては、3mと5m深の採水も行い、塩分濃度と糞便指標との関係整理を充実させた。さらに、新たに医薬品類に関連して薬剤耐性遺伝子も追加して、晴天時と降雨後の測定を実施したことは新規性も高いと考えられる。 雨天時越流水による汚染の広がりやその拡散に関連して、懸濁物へ吸着しやすいアルキルベンゼンを対象として、沿岸域の懸濁物と堆積物を分析して堆積物の巻き上がりの寄与を評価した点も、沿岸域の雨天時越流水に伴う汚染現象を評価する上で、過去の汚染物質の蓄積考慮した重要な知見を得た。 疑似太陽光による実内実験により、沿岸域における太陽光に伴う糞便汚染指標微生物と医薬品類の減衰傾向を室内実験で把握できたことから、医薬品類については3次元流動水質モデルへの組み込みを行って試行的なシミュレーションも実施している。 以上の成果の一部を、学術誌論文として発表できていることから、研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も、神田川や隅田川の河口から台場周辺海域における水質調査を継続して実施する予定である。その際には、従来とは異なる特性を有する降雨における採水調査を可能な限り実施する計画である。また、下水処理水や雨天時越流水などの由来を考慮して薬剤耐性遺伝子の調査データの取得を継続する。 糞便汚染指標微生物への塩分と太陽光による不活化影響、また、太陽光による医薬品類の減衰影響を今回の室内実験で得た。そして、糞便汚染指標微生物については、その影響を表現できる定式化が完了したことから、大腸菌以外の指標微生物も含めて水質モデルへの組み込むことを考えている。また、医薬品類については実験条件数が少ないため、暫定的な減衰反応速度定数の設定となっている。特に、難分解性有機物の共存の影響が大きいことから、文献調査を含めて、太陽光とともに、沿岸域における塩分濃度と関連する共存有機物濃度の影響を考慮した定式化を目指す。 沿岸域の複数地点における水位と塩分濃度の連続観測データの整理を行い、3次元流動水質モデルの上流端である隅田川上流地点における荒川からの分派量の設定、新河岸川からの環境維持水量を適切に与えることが重要であることが明らかになってきている。また、現状における鉛直混合係数の調整も必要であることから、3次元流動水質モデルの検定や検証は未着手であることから、今後実施する予定である。 「泳げる海、お台場」の実現に向けた取組を実施している港区と連携して、降雨後のお台場海浜公園内の水質調査を継続実施する計画である。また、様々な降雨特性や日照、潮汐条件などの気象情報を入力して、流動水質モデルによる糞便汚染状況の違いを整理する。そして、東京都区部の過去の降雨データをもとに、降雨を類型化して、その類型化降雨ごとに、お台場海浜公園における降雨後の大腸菌濃度予測のデータベースを作成する計画である。
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