研究課題/領域番号 |
20H02293
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊山 潤 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30282495)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 構造ヘルスモニタリング / 動ひずみ計測 / 被災度区分判定 / 鉄骨柱脚の損傷検知 / 鉄骨構造 / 機能維持 / 加速度計測 |
研究実績の概要 |
本研究は、鉄骨造建物に適用可能なひずみおよび加速度の多点・リアルタイム計測するシステムを構築し、そのデータ分析手法の確立と適用性の検証を目的としている。本年度は特に、1)実建物へのセンサシステムの適用、2)構造解析結果と実測計測の照査、3)大型試験体の設計と制作および4) 計測システムの構造分野以外への展開、の4項目について検討を行った。 上記項目1) については、前年度までで開発・検証してきた、安価で簡易なひずみおよび加速度計測システムを、4地域の実建物に設置し、地震時、強風時、および積雪時のデータを継続して取得中である。データ計測自体は順調に行われることが確認できているが、設置方法や通信安定性については次年度以後さらなる改善が必要であることを確認した。 上記項目2)については、立体トラス構造の振動実験等を通じ、ひずみ計測結果と構造解析結果がほぼ合致していることを確認した。一方、実建物計測結果においては、構造設計時の計算結果とはかならずしも一致しない場合があることが確認された。これは構造計算モデル上の仮定と建物における実態が異なることによるものであり、本研究で開発したセンサシステムがこのような仮定と実態との乖離を検出するには十分であること、構造計算モデルの精度向上に有益な情報を与えることが示された。 上記項目3)については、本学キャンパス内に鉄骨建物骨組を模擬した、およそ幅6m、奥行き4m、高さ4mの鉄骨骨組試験体を設計、制作した。予定通り2022年3月に施工を完了しており、次年度の計測システム設置準備を完了した。 上記項目4) については、本システムを他分野、他大学の研究者との共同研究に拡大し、RC造建物への適用検討や、加速度センサと人感センサの併用による人流把握、および計測した結果を総合して居住者に提供するためのデジタルサイネージの設計と設置等を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計測システムの開発を概ね完了し、いくつかの実建物への設置を行うことが出来た。またデータの分析手法も概ね確立できており、健全時についてはデータ分析を完了している。今後経時・経年変化や地震時、強風時などにおけるデータが取得できれば,変化を検出するためのデータ分析に進むことが出来ると判断される。 また、実験での検証のため、大型試験体を設計・施工するところまで完了できている。次年度はこの試験体の基本性状把握や、非構造部材の設置、柱脚や非構造部材の損傷試験と検出検証等を行う予定であり、その準備が完了したものと判断している。 また、今回の簡易計測システムへの理解・関心も高まってきており、協力していただける研究者や企業等も広がっている。構造ヘルスモニタリングをさらに展開・普及させるためには、構造分野のみならず、建築意匠・計画・環境分野等を巻き込んで高度な建築物システムに作り上げてゆく必要があるが、そのための準備が整ったものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は実建物での計測を開始し、また大型試験体についても製作が完了した。今後はこれらの装置を活用してデータの蓄積および損傷時の挙動の調査を継続する予定である。 本研究課題はひずみ計測を中心とするものであり、この方針には変わりがないが、これをより普及させることを考えると、構造性能評価としてのモニタリングから、建物全体のモニタリングへの展開が必須となる。今後は、ひずみのみならず、加速度、人流、気温、湿度等といった、構造性能以外の指標も含めたシステムに拡大し、より広い分野の研究者、企業との共同を目指す方針としたい。
|