研究課題/領域番号 |
20H02294
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
五十嵐 規矩夫 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (40242292)
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研究分担者 |
三井 和也 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (60862224)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 建築構造 / 鋼構造 / 部材 / 安定性 / 統一的性能評価 |
研究実績の概要 |
本研究は,鋼構造に対する設計行為の明確化および合理化に繋げる鋼構造の設計体系の高度化を図るために,その設計手法が連続かつ統一的となることを目指し,鋼構造部材の使用条件範囲を区分,設定,限定しない統一的な安定性評価手法を構築することを目的としている.具体的には,(1)主要構造部の部材として使用されていない薄い板厚の範囲における部材挙動およびその構造性能の解明,(2)鋼構造部材の軽量化,大断面化に伴う断面形状および補剛等を考慮した周辺部材の簡略化,(3)現行規準,指針における仕様,使用範囲から逸脱している部材の詳細な部材性能評価であり,研究全体は5つのサブテーマから構成されている. 以上の目的のために,令和2年度は以下の2つのサブテーマ「1)圧縮力および引張力を受ける非対称断面部材の弾塑性性能評価」,「2)圧縮力および曲げを受ける組立部材の安定性評価」を主に検討した. サブテーマ1)では,冷間成形された板厚6mm未満の非対称薄板断面部材の接合部耐力を,これまでの板厚6mm以上の圧延形鋼を対象にした設計式では評価できないことを明らかにした上で,それらが連続的に評価できる耐力評価式を構築した.また非対称断面の圧縮力作用時における座屈モードの分類とその座屈性状を明らかにし,統一的な座屈耐力評価を可能にした. サブテーマ2)では,冷間成形された板厚6mm未満の非対称薄板断面部材の組立引張材に対する接合部耐力の検討を開始し,その試験体計画を行なった,さらに,圧縮力をうける組立部材の曲げ座屈に対して理論的な検討を加え,これまでの座屈形式を用いた検討では,実際の座屈挙動を把握する上では不十分であることを明らかにし.その座屈耐力算定方法を示した. さらには先んじて,サブテーマ「3)薄板H形断面部材の安定性評価の高度化と接合部への展開」に関する数値解析を用いた基本的な検討も開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は本研究の主目的(1),(2)に関わるサブテーマ1),2)および3)の一部を行なった.なお新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から,載荷実験を当初の計画通り行うことが困難であったため,理論的検討および数値解析的検討が行える研究については予定を前倒で行なった. 「圧縮力および引張力を受ける非対称断面部材の弾塑性性能評価」(サブテーマ1)では,冷間成形された板厚6mm未満の非対称薄板断面部材の接合部耐力がこれまでの板厚6mm以上の圧延形鋼を対象にした設計式では評価できないことを明らかにし,薄板から厚板に至る連続的に終局耐力評価できる明確な物量を明示した新たな耐力評価式を載荷実験および数値解析を通して構築した.また短柱非対称断面の圧縮力作用時における座屈モードの分類とその座屈性状を明らかにし,統一的な座屈耐力評価を可能にした.今後さらに長柱の複合座屈に対する座屈耐力,最大耐力を明確にする必要性も明らかにした. 「圧縮力および曲げを受ける組立部材の安定性評価」(サブテーマ2)では,冷間成形された板厚6mm未満の非対称薄板断面部材の組立引張材に対する接合部耐力の検討を開始し,その試験体計画を行なった.今後はこの載荷実験が未実施であるため,引続き検討を行う必要がある.また圧縮力を受ける非対称薄板断面組立部材の曲げ座屈に対して理論的な検討を加え,実際の座屈挙動を検討する上での現行の変形仮定の不備を指摘し,新たな座屈耐力算定方法を示した.具体的な実挙動の検討は,既往の研究成果を参考に数値解析的検討を中心に進める. 計画を前倒しし,「薄板H形断面部材の安定性評価の高度化と接合部への展開」(サブテーマ3)の一部を行なっている.具体的には,梁端部ハンチを有する梁の塑性変形能力向上に向けた効果的なスチフナ配置計画および上フランジ拘束梁の塑性変形能力評価式の高度化に向けた数値解析を進めた.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に計画している主なサブテーマは「2)圧縮力および曲げを受ける組立部材の安定性評価」,「3)薄板H形断面部材の安定性評価の高度化と接合部への展開」である.新規かつ詳細な検討が必要と判断したサブテーマ1)の一部についても継続検討する. サブテーマ2)では,令和2年度に単独の薄板非対称断面部材の偏心引張接合部挙動とその最大耐力評価式を提案した.引き続き,様々な接合ピッチを有する薄板非対称断面組立材の引張試験を行い,終局挙動および耐力を明らかにし,引張材に対する新たな合理的設計式を提案する. サブテーマ1)で行なった薄板非対称断面部材の局部座屈挙動および最大耐力算定手法の提案に引き続き,複雑な座屈挙動である「ゆがみ座屈」に対する検討および「長柱の境界条件に応じた終局耐力評価」を新たに行う.ここでは,ゆがみ座屈に対する理論構築および弾性座屈耐力評価,さらにはそれらを用いた座屈後耐力,終局耐力評価を行う.加えて,比較的長柱の座屈実験を実施し,座屈耐力評価を行う.圧縮および曲げを受ける組立材の挙動については,詳細な検討が必要と判断し予定の研究期間を伸ばして行うこととする. サブテーマ3)では,柱梁接合部および近傍部位の薄板化の可能性とその設計法に向けた検討を行う.具体的には薄板H形断面部材を用いた柱梁接合部が安定的にせん断降伏,せん断座屈する条件を見出し,その変形性状を確認する.また梁端部で梁せい方向に拡幅する構法がしばしば用いられるが,その拡幅によりウェブ幅厚比が大きくなり相対的に薄板となるため,安定的な挙動を確保する条件を検討する.これらについては数体の試験体を用いてその実挙動を把握するが,今後は,基本性状を確認する意味で数値解析による検討を主体とする. さらに,サブテーマ「4)冷間成形角形鋼管部材の連成座屈不安定挙動の解明」に向けた基礎資料の収集と基礎的検討を開始する.
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