近年採用例が増加している木造大スパン床では、歩行など床上での人間の動作により有感振動が発生し、居住性に悪影響をおよぼすことが懸念される。しかし、歩行振動に関する現行の評価規準は、S造やRC造建築物の床を対象としたものであり、性状が大きく異なる木造床に適用すると、実状よりも悪い評価となることが経験的に指摘されている。本研究は、S造やRC造建築物の床にも木造床にも共通に適用できる評価指標を提示するとともに、汎用性の高い予測手法を確立し、歩行振動からみた木造大スパン床の評価方法を確立することを目的とする。 令和2年度は、木造床で発生する歩行振動と、S造やRC造建築物の床で発生する歩行振動に対する居住者の感覚,評価を、官能検査手法を適用して定量的に比較した。その結果、木造床では、S造やRC造建築物の床と比較して、加速度振幅の最大値や振動の継続時間がほぼ同程度でも、振動が小さく感じられることを明らかにした。 令和3年度は、前年度実施した官能検査結果と検査試料とした歩行振動の関係を詳細に検討した。その結果、木造床では、歩行者が受振者近傍に着地した際に発生する局部的なたわみ変形が居住者の感覚,評価に大きく影響することを明らかにし、この要因を取り込んだ歩行振動の評価指標を提示した。また、有限要素法による予測解析を試行し、部材の異方性や接合部の固定度などに関する基礎的知見を集積した。 令和4年度は、実在する木造建築物の大スパン床にて振動の測定および解析モデルの作成を行い、壁による拘束や、二重床を含む仕上げの影響などについて検討した。また、歩行振動予測の際の入力となる加振力について、木造床の応答に大きく影響する10Hz以上の成分の影響を中心に詳細に検討した。これらの検討結果に基づいて、木造大スパン床における歩行振動の予測方法を確立し、前年度に得られた評価指標とあわせて、歩行振動の評価方法を確立した。
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