研究課題/領域番号 |
20H02312
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 容平 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40448098)
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研究分担者 |
下田 吉之 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20226278)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 脱炭素化 / 民生家庭・業務部門 / エネルギー需要モデル / 技術選択 |
研究実績の概要 |
本研究は日本の民生家庭・業務部門のエネルギー需要を推計するシミュレーションモデルを開発し、両部門における脱炭素化を実現する方策について検討することを目的としている。開発モデルは多様な技術的対策、ストック管理に関する社会的対策を考慮するため、住宅・建築物、地域を需要推計の単位として日本全国のエネルギー需要を定量化する階層構造を持つ。2021年度の成果の概要は次に示す2つである。 2020年度に確立した業務施設のストック構成を推計する手法を日本全国に適用し、業務部門全体のエネルギー消費及び温室効果ガス排出量の削減に大きな影響を持つ空調関連の熱源・空調システム、省エネルギー手法と、給湯システムの採用状況について、設備区分別の現存ストックと将来にわたる変化を推計するとともに、それによりもたらされるエネルギー需要、二酸化炭素排出量の変化を推計した。本成果はApplied Energy誌に掲載された。この発展として、省エネ基準適合性判定プログラムの入出力データを活用した非住宅建築物の外皮・設備設計の実態分析を行い、ロジスティック回帰による規模・立地別の設計仕様を明らかにした。本成果は日本建築学会環境系論文集に掲載予定である。 加えて、本研究は小地域単位で民生家庭、業務部門のエネルギー需要を推計する手法を確立し、日本全国に適用する手法を開発した。本モデルでは住宅のエネルギー需要をエージェントベースの生活行動シミュレーションに基づいて定量化することに特徴がある。本モデルの設計のためのモデル化手法の評価を行った内容はJournal of Building Performance Simulationに、日本の生活時間データに基づいてモデル開発を行った内容はエネルギー・資源学会論文誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)小地域を単位とする生活行動シミュレーション 開発モデルでは日本全国の小地域を単位として整備されている国勢調査データ等を用いて、個人属性、世帯属性、住宅仕様を考慮した模擬人口を生成し、生成されたエージェントの生活行為(睡眠、食事など)を乱数生成してエネルギー需要推計に用いる。行為の乱数生成には複数のパラメータを用いるが、パラメータは生活時間データに基づくロジスティック回帰モデルにより与えられる。2本の論文が学術雑誌に掲載され、現在1本が投稿中である。また、日本全国の人流データを用いたモデル構築に着手した。 2)ストックモデリング 家庭部門は家庭用CO2統計等の政府系統計の個票データを用いて、ライフコースに係る意思決定を表す統計モデルを開発中である。地域、住宅建築年代、その他デモグラフィック要因による技術採用状況の差異を表現可能な仕様とした。業務施設については、竣工設備データ、省エネ基準適合性判定プログラムの入出力データを統計解析し、建築物の属性と設備選択の関係を模擬した。本内容について学術雑誌2本に論文が掲載された。 3)住宅、業務施設の統合モデリング 生活行動シミュレーションの結果に基づいて住宅、業務施設の滞在状況を模擬し、滞在先のエネルギー需要を推計する方法を開発中である。1)で述べた人流データを用いることにより両部門、さらに交通部門の整合性を確保可能であることを確認した。 4)エネルギー需要推計と技術評価 2021年度は小地域でのエネルギー需要推計手法を確立するとともに、二酸化炭素排出量削減可能性評価のケーススタディを実施した。加えて、日本の業務部門を対象とする検討を行い、英文誌に掲載された。加えて、GISデータを用いて施設単位の光環境シミュレーションを行い、得られた結果から周辺環境と技術導入効果の関係を表すモデルを開発した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度も上記の4項目について研究を実施する。 1)小地域を単位とする生活行動シミュレーション 日本全国の小地域を単位として整備される模擬人口の生活行為シミュレーションの精度を向上させる。特に日本全国の人流データを使用し、地域別の外出・移動行動の差異を考慮するとともに、その特性による在宅行動の差異を考慮できるものとする。 2)ストックモデリング 家庭部門、業務部門ともに、2021年度までに開発したモデルを用いて長期的な建築・設備・その他技術のストックにおける長期的変化を推計する。特に今年度は空間統計手法を援用して地域的な技術選択の違いを考慮する。 3)住宅、業務施設、電気自動車の統合モデリング 各エージェントの生活行動シミュレーションの結果に基づいて住宅、業務施設の滞在状況を模擬し、滞在先のエネルギー需要を推計する方法を確立する。これにより両部門の整合性を確保する。加えて人の生活行動と電気自動車利用を関連付け、人の生活に伴うエネルギー需要全体からの脱炭素化を検討できるモデルを構築し、二酸化炭素排出量削減可能性を評価する。住宅は応募者の研究室で開発済みのツール、業務施設には米国DOEが開発したEnergyPlusを用いて行い、ZEB関連技術、人の行動を考慮したマネジメント技術等利用可能技術を網羅的に考慮する。昼光利用や壁面、屋根面を利用した太陽光発電は周辺環境により導入効果が異なることから、GISデータを用いて施設単位の光環境シミュレーションを行い、得られた結果から周辺環境と技術導入効果の関係を表すことが可能なモデルを開発する。 4)脱炭素化シナリオの検討 以上の開発モデルを活用し、日本の脱炭素化シナリオを検討する。
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