研究課題/領域番号 |
20H02330
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
山本 直彦 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (50368007)
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研究分担者 |
増井 正哉 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (40190350)
中村 航 奈良女子大学, 生活環境科学系, 助教 (50824538)
向井 洋一 神戸大学, 工学研究科, 教授 (70252616)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ネパール / バクタプル / 世界遺産 / まちなみ保全 / 再建支援 |
研究実績の概要 |
【研究の目的】本研究は、イタリアの都市研究手法である都市組織研究を応用して、ネパールの世界遺産登録都市バクタプルの都市形成過程を解明する。これまでの研究成果から、まちなみの原型を特定する仮説的条件を得た。本研究は、この仮説検証を目的とする。コロナ禍で現地調査を実施できなかったが、その場合、令和3年度の研究計画概要は次のようであった。 【研究実施計画】現地調査を行わない場合は、計画と①意匠・景観チームは、すでに入手しているバクタプル旧市街全体の地籍図を用いて、まちなみプロトタイプ候補の机上での分布分析を行う。②材料・構法チームは、これまでにバクタプルで焼成煉瓦や日干し煉瓦の材料サンプルを取得ずみで、その物性や構造的性質についての実験・分析を国内で行う。③構造チームは、本年度は現地調査を行わず、これまで現地で振動計測に協力を得た住民に、構造シミュレーション結果をフィードバックするためのツール作成に取組む。地震以降、現地で進めてきた建物の常時微動計測データを利用し、個々の建物形状に応じた簡易モデルを汎用構造解析ソフトで作成し、それらの振動応答性状を可視化する。 以上の計画から令和3年度は、①意匠・景観チームは、地籍図を用いて、まちなみプロトタイプの分布を検討した上で、この分布を元に現地研究者に全天球カメラを用いた建物写真の撮影を依頼し、写真による外観意匠の分析を進めた。②材料・構法チームは、バクタブルで採取した日干し煉瓦製造に用いた材料について、密度および粒度の分析を行った。③構造チームは、2015年ネパール地震後に、現地の歴史的煉瓦造住居で実施した常時微動計測結果を再分析し、建物のファサード(建築年代)や増改築履歴に特徴づけられる、振動特性の相違についての分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍のため、研究遂行に必要不可欠な現地調査が行えなかったため、研究の進捗状況は大幅に遅れている。そうした状況の中で、まちなみプロトタイプを含む街路の全天球動画撮影を現地研究者に依頼し実施したが、動画撮影データの送付は、ネパール側のネットワーク事情を鑑みるとデータサイズが大きすぎ、非現実的なことが判明した。試行錯誤の末、静止画撮影のデータに送付してもらい、街路景観の分析を進めたが、静止画像では各建物の配列順序の確定に大幅な手間がかかり、この点でも進捗は滞った。 また、構造研究に関しても実測調査が実施できていないが、調査地の歴史的煉瓦造住宅の構造性能を非破壊試験により定量的に特徴づけるために、過去に行った常時微動計測の実測データの再分析を行っており、複数点計測によるデータ間の相互相関分析による特徴量を多面的に評価することで、計測住戸の固有振動数の同定精度を向上できる可能性が明らかになってきている。現地調査実施の実施が可能となった段階で、速やかにこれらの計測手法とデータ分析手法の妥当性を実地検証するために、安価なMEMSセンサーを新たに複数台導入して、動的試験機を用いて、計測データの精度検証を行うとともに、センサー間のデータ同期の確認作業を済ませており、現地で限られた期間に多数の建物で効率的に振動計測を可能とするための準備は整っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度も引きつづいたコロナ禍のため、所属研究機関からは海外調査のための日本出国が禁止された。ワクチン接種を含めた出入国条件、所属研究機関の現地調査実施条件などが緩和され、現地調査実施が可能になり次第、ネパール調査を行うことを目指す。 また、コロナ禍間の研究成果としては、①意匠・景観チームは、コロナ禍以前に、まちなみプロトタイプ候補として、一部、建物外観記録、平面の実測、聞き取りを行っていた事例について、必要に応じて補足調査を現地研究者に依頼しながら、本研究の目的に沿ってデータを見直し査読論文の執筆を計画している。 ②材料・構法チームは、現地調査が実施になり次第、内外装および壁体内の材料の構成把握と、新旧の構成材料の異なる住空間の快適性の聞き取りを行う。一方で、現地調査に代わる検討として、国内では現状の新築に見られる建物構成(RCの柱梁に焼成レンガ・セメント目地の壁体)と伝統的な建物構成(日干しレンガおよび焼成レンガの組積壁体)について、モックアップを作製し、その温湿度および結露の有無の確認を行う。また、現地で行われている焼成煉瓦の機械成形(真空押し出し成形)と手練り・手成形の違いが、密度、強度、耐凍害性に及ぼす影響を検討する。これらの汎用的なデータを蓄積し、改修・改築時の材料選定や構法の決定に活かすことを計画する。 ③構造チームは、複数の住戸が境界壁を共有し、建物の非一体的な補修や改修・改築がなされ、在来と現代構法の混在もあり、構造的に複雑化したネパールの住戸に対する、振動計測に基づく非破壊試験の精度向上のために有効な計測手法とデータ処理法について検証を進めるとともに、調査対象住戸の構造危険度/健全度をスクリーニングするための、数値モデル作成と構造データベース構築に取り組み、得られた成果の現地還元のために、国際共著による英文論文の執筆を計画している。
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