研究課題/領域番号 |
20H02335
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
山口 健太郎 近畿大学, 建築学部, 教授 (60445046)
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研究分担者 |
山井 弥生 (斉藤弥生) 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (40263347)
井上 由起子 日本社会事業大学, 福祉マネジメント研究科, 教授 (40370952)
石井 敏 東北工業大学, 建築学部, 教授 (90337197)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 特別養護老人ホーム / 個室ユニット型 / 高齢者入居施設 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本の高齢者入居施設の到達点と課題を明らかにした上で、福祉先進国とされてきた北欧諸国との比較を行う事により、生活・介護の質と効率性の均等関係について明らかにすることを目的としている。2020年度は、日本の現状と到達点について明にするために文献調査を行った。文献調査の対象は、日本建築学会の論文集、技術報告集とし、検索キーワードは老人または高齢者とした(戸建て住宅、人間工学、公共施設におけるバリアフリーに関する論文は除く)。調査対象年は建築学会計画系論文集が1960年から2022年2月、技術報告集が1996年から2021年までとなる。抽出論文数は、日本建築学会論文集(計画系、環境系)が224本、日本建築学会技術報告集が67本となった。2020年度は、これらの論文を研究方法、調査対象施設、研究内容ごとに分類して統計的に分析した。 文献調査の結果、日本の高齢者入居施設に関する研究は老人福祉法が制度化された1960年代にはじまり、介護保険の制度化前の1990年代から急速に増加し、個室ユニットという現在の型ができて以降は減少傾向にあった。また、1960年代当時も研究の主たるテーマは人間-環境学視点からみた高齢者の行動であり、利用者の心理や行動を中心が中的課題となっていた。海外の動向については、建築学会における海外関連の論文を分析し、1960年代にはアメリカの高齢者向け住宅の紹介が行われ、小グループごとに食堂を設ける分散配置の考え方が示されていた。さらに同時期に建築学会が主催したコンペでも現在のユニット型に近い空間構成が提案されていた。高齢者入居施設では、1960年代から小グループ型が提案されていたが、実際には中廊下+並列配置型が普及しており、1990年代以降に再度、海外から認知症高齢者グループホームの考え方が提案されることで、小グループ型が定着するという経緯を辿っていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査計画では2020年の後半から文献調査と並行して国内外におけるフィールドワークを予定していたが、COVID-19の影響により研究計画の変更が必要となった。2020年度の研究計画については2021年度、2022年度に繰り越し研究を実施した。2020年度は、論文調査を中心に国内の論文を収集し、それを取りまとめる作業を中心に行った。また、調査対象としている高齢者入居施設は、COVID-19の影響を強く受けている建物種別となるが、高齢者入居施設は感染症、自然災害を問わず24時間365日の稼働が求められている。非常時の対応は高齢者入居施設に求められる重要な機能の一つであると考え、当初の研究計画を一部変更し、COVID-19に対する高齢者入居施設の対応についての調査を行うこととした。2020年は事前調査として、北海道札幌市にある特別養護老人ホームとフィンランドヘルシンキ市にある認知症高齢者グループホームに対してオンラインインタビューを行った。札幌市にある特別養護老人ホームを調査対象としたのは、北海道は他の都府県と比較してCOVID-19の発生が深刻であり、多方面からの対策が実施されていると考えたからである。また、フィンランドを調査に加えたのは、パンデミックが世界的に広がる中、日本だけではなく海外の状況を加えることにより普遍的な高齢者入居施設に求められる機能が明らかになると考えたからである。
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今後の研究の推進方策 |
高齢者入居施設はCOVID-19の発生以降、外部者の立ち入りが厳しく制限されており、当初予定していた現地調査が非常に厳しい状況となっている。海外調査についても厳しい渡航制限が課されており調査の実施が困難にある。2021年度もパンデミックによる影響が継続すると想定されるため、オンラインでのインタビュー調査など調査方法を変えて研究を実施してく予定である。 また、これまで高齢者入居施設では、入居者の生活の質および介護の質の観点から個室ユニット型を推進してきたが、COVID-19がこれらの取り組みに与える影響は未知数である。個室ユニット型がCOVID-19に対しても有効であるのか、もしくは、マイナスの影響を与えているかを調べることは、今後の高齢者施設の計画に重要な示唆を与えると考える。そこで2021年度については、アンケート調査やオンラインでのインタビュー調査を通じて、高齢者入居施設におけるCOVID-19の影響について調査を行う予定である。
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