研究課題
(1)ジャイロトロンを使用した大気ミリ波放電試験:ジャイロトロンについて、今まで高電圧パルス回路中の微小放電や絶縁破壊の発生によりジャイロトロン電子銃部に印加できる電圧が20 kVに制限されていた。そこで、放電箇所の特定や絶縁オイルの使用により、ジャイロトロン電子銃部に印加できる電圧を40 kVまで増加させた。これにより、100 kW以上の出力のジャイロトロン発振に成功した。また、本研究で周波数94 GHzでのミリ波放電試験を世界で初めて行い、超音速で伝播するミリ波放電デトネーションの観測に成功した。今回高速度カメラで撮影したプラズマの放電構造は、以前我々のグループで行った28 GHz放電試験で得られた構造に類似することが明らかとなった。(2)デトネーション伝播現象解明のための数値解析:推力生成の根幹をなすデトネーション伝播現象と推進剤として使用する空気の吸い込み過程の一連のサイクルを同時に計算できる、2次元CFDコードが開発された。ミリ波の伝播に関して、既存のマックスウェル方程式を解く方法ではなく、光線追跡法を用いて空間的に非一様に光線を伝播させる方法を採用することで、ミリメートルスケールで生じるプラズマの微細構造を再現しつつ、計算コストを低く抑えられるコードの開発に成功した。(3)マイクロ波ロケットの打ち上げ軌道解析:H-IIBロケットの第1段ロケットをマイクロ波ロケットで置き換えたロケットに対し、ミリ波伝送周波数及び伝送光学系が打ち上げコストに与える影響を調査した。空気抵抗損失とミリ波の大気減衰損失のバランスにより、固定焦点方式では周波数28 GHzが、可変焦点方式では5.8 GHzがコストを最小とすることが分かった。これらの最適化により、今まで考えられていた打ち上げに必要なビーム電力、ビーム基地建設コストをそれぞれ61%、70%削減できることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
(1)ジャイロトロンを使用した大気ミリ波放電試験:本研究の目的の一つであった超音速で伝播するミリ波放電デトネーションの観測に成功した。伝播速度やプラズマの放電構造に関して、周波数依存性を検討するうえで有意義な成果が得られた。また、デトネーション波観測用の実験系が完成し、今後加速度的に現象解明のための実験を行うことができる。(2)デトネーション波伝播現象解明のための数値解析:デトネーション伝播現象と空気吸い込み現象の両方を同時に再現する2次元CFDコードが開発された。今後、実験結果で得られた現象を精密に再現できるよう改良を重ねることで、本計算コードは推進機形状の最適設計を行う上で有用なツールとなることが期待される。(3)マイクロ波ロケットの打ち上げ軌道解析:H-IIBロケット第1段目のマイクロ波ロケット置き換えにより78%のコスト削減が可能であることが示され、本研究の取り組みが実用上、有用であることが裏付けられた。伝送光学系の設計においては、これまでの想定以上にミリ波の大気減衰損失が打ち上げに必要な電力に影響を及ぼすことが明らかとなった点は科学的に大変有意義である。
(1)ジャイロトロンを使用した大気ミリ波放電試験:ジャイロトロンについては、超電導磁石に対してジャイロトロンを100マイクロメートル精度でアライメント調整し、真空ポンプの排気性能を損失なく引き出せる十分な太さの径の真空配管を購入したことにより、さらなる耐電圧の向上と発振出力の増大が見込まれる。また、コンデンサーバンクを追加することでマルチパルス運転も可能となる。プラズマ計測については、今後は2波長マッハツェンダーや発光分光法を用いて、プラズマ諸量の空間分布計測に試みる。(2)デトネーション波伝播現象解明のための数値解析:今後研究(1)で計測する、プラズマ諸量の空間分布を数値計算に取り入れることで、本研究で開発したコードの妥当性を評価し、改良を重ねる。最終的には実機スケールまで計算領域を拡大させ、将来のマイクロ波ロケット打ち上げで予想される現象の解明に取り組む。(3)マイクロ波ロケットの打ち上げ軌道解析:本研究と他周波数のミリ波を用いて行われた先行研究を比較することで、デトネーション伝播現象の周波数依存性を明らかにし、マイクロ波ロケットの打ち上げ軌道解析で考慮する。これにより、より正確で最適なコスト削減のための打ち上げ伝送周波数や伝送光学系の検討を行う。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件) 備考 (1件)
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