近年、超音速旅客機やスペースプレーンの研究開発が活発化している。衝撃波発生に伴う機体への過大な造波抵抗、スクラムジェット等超音速空気吸込みエンジンの技術難度の高さが実現への壁となっている。機体周囲やエンジン空気吸込み口に生じる境界層の剥離は、機体への空気抵抗・熱負荷の増加、エンジン不始動を招く。剥離抑制はこれらの実現に向けたブレークスルーとなる。 そこで本研究では、ナノ秒パルス放電プラズマアクチュエータ(以下単に「ナノ秒放電」と呼ぶ)により、超音速流中の境界層の剥離抑制に取り組む。ナノ秒放電を特徴づける指標として、放電後の渦生成を介し超音速の主流から低速の境界層への運動量輸送による剥離抑制に加え、放電に伴う流れの過熱により剥離が進行してしまうという負の側面がある。この2つの現象に焦点を当て研究を進める。 今年度は昨年度の結果を受け、まず斜め衝撃波・境界層干渉による剥離域をPIV法とCFDにより分析した。これに基づき風洞のノズル形状を調整し、剥離のサイズを適正化することで、ナノ秒放電の剥離域への影響を観察できることを確認した。境界層内でのナノ秒放電による渦の挙動をPODにより分析し、波頭を持つ形状であることを示すとともに、放電位置と境界層の関係の重要性を識別した。電極の形状により、剥離が悪化するケースと改善するケースを確認した。これは渦生成と流れの過熱のバランスによるものと考えられ、特に電極を斜めに設置したケースでの渦生成促進を放電周波数とPODの周波数分析の比較により議論し、剥離が抑制されることを示した。一方、その効果は依然として小さく、更なる性能改善に向けた活動を継続する計画である。その一案として、ナノ秒放電に加え境界層を極低温に冷却することによる剥離抑制を既存装置を活用して試行し、今後に向けて有益なデータを取得することができた。
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