研究課題/領域番号 |
20H02354
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
外本 伸治 九州大学, 工学研究院, 教授 (80199463)
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研究分担者 |
坂東 麻衣 九州大学, 工学研究院, 教授 (40512041)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自律飛行システム / ドローン / 障害物検知 / 障害物回避 / 観測ネットワーク |
研究実績の概要 |
本来の研究計画では、2021年度は実験装置を用いて障害物近傍での運動推定精度ならびに静止している障害物までの距離認識システムについて、計算機シミュレーションと比較しながら、推定精度の検証をする予定であった。しかし、コロナ禍により国境を越えての物品・パーツの配送が大幅に制限されたため、精度検証に必要な実験装置の納入が大幅に遅れた。 そこで、実施すべき研究項目の順番を変更し、実験装置を用いずに実施できる項目を先に実施した。具体的には、移動障害物に対する距離認識システムについて、計算機シミュレーションを用いて障害物の大きさや移動速度と推定精度との関係を調べた。また、その結果を用いて形状推定についても検討した。 複数の自律ドローンを観測プラットフォームとすることで構築する能動的な3次元観測ネットワークについては、前年度までは、強化学習の手順のなかでドローンの相対位置を状態として離散化する手法を検討した。学習プロセスの簡略化で学習時間を低減する手法を検討したが、ドローン数の増加や空間の高分解能化を考えると現実的な時間内での学習は難しくなる。そこで、学習すべき項目をドローンの移動ベクトルとする、方策ベースの強化学習を適用することにした。その結果、前年度までの状態の離散化に比べると学習に要する時間を格段に削減することができた。さらにその結果を用いて、ドローン数が途中で増減するように環境を変化させても、その変化に柔軟に対応できるネットワークの構築が可能であることを計算機シミュレーションにて確認した。 移動障害物に対する距離認識システムならびに方策ベースの強化学習についての研究は、2つの国内学会において成果の一部を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により精度検証に必要な実験装置の納入が大幅に遅れたために、計算機シミュレーションで、移動する障害物の運動変数の推定について検討した。移動体には2台のカメラを搭載し、1台のカメラからWFI optic flowの手法で移動体の運動変数を推定する。その後、2台目のカメラが捉えた移動障害物の画像から得られたoptic flowに対して、コンピュータビジョンの手法で障害物の領域とそれ以外の領域を分割し、それぞれの領域にWFI optic flowの手法を適用することで、それぞれの距離の時間変化から移動障害物の運動変数を推定する。2021年度は、上記の手法の基本的な推定性能を調べるために、移動体に搭載する2台のカメラの内の1台は移動体の重心にあると仮定し、総和計算法という手法で距離を推定した。また、障害物とそれ以外の領域の分割にはk-meansクラスタリングを用いた。 3次元観測ネットワークについては、方策ベースの強化学習を適用することにした。ネットワークのミッションとしては、まず、周囲にあるドローンとの相対位置を用いて空間の中で互いが散開挙動をとることを設定した。このときドローンは、決められた空間の境界と周囲のドローンからできるだけ長い距離を保つような学習をさせた。このとき各ドローンは、空間内に何機のドローンがいるのかの情報は持っておらず、周囲にあるドローンの相対位置から移動方向・移動量を決めるアルゴリズムを学習するため、ドローンの数が変化しても“適切な”移動をするように学習する。学習した結果を用いて、途中でドローン数が増減するシミュレーションを行ったところ、数の増減に応じてドローンが互いに適切な距離をとるアルゴリズムが学習できていることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、概要で述べたように実験装置の納入が大幅に遅れたために、その装置を用いた検証実験が後回しとなった。そこで実験装置なしに実施できる研究項目を先に実施したが、本研究の目的である実用的なシステムの開発という観点からは、実験装置を用いた結果をシミュレーション結果と比較することは不可欠である。したがって、納入された実験装置の操作法を早期に習得し、キャリブレーションの後に、本来の研究項目をできるだけ早く実施することが重要である。 また、実験を伴わない研究項目についてもまだ基本的な性能の検証に留まっており、現実的な装置・システムにおける制約を考慮した上で、それに応じた手法の改善と、設計変数が及ぼす影響についてより詳細な検証が必要である。具体的には、距離推定の一つの手法である総和計算法では、搭載カメラの内の1つが重心にあるという仮定を用いており、推算法は簡単になるが、これは現実的ではない。したがってカメラ位置に制約がない、より一般的な推定法の開発が必要である。また、領域分割に用いたk-meansクラスタリングについても、移動体の推定においては計算アルゴリズムの短縮化が重要なポイントであるため、この観点からの検討が必要である。 3次元観測ネットワークについては、方策ベースの強化学習がうまく機能することは確認できたが、この学習過程においてはドローンの動特性を考慮できていない。実際のドローンは飛行特性に応じた運動をするため、これを考慮した学習プログラムが必要であるが、運動方程式をそのまま学習プロセスに取り込むと学習に要する時間が非現実的となる。そこで、学習時間をさほど増やすことなく飛行特性を取り込む手法を検討する必要がある。
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