研究課題/領域番号 |
20H02413
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
能島 暢呂 岐阜大学, 工学部, 教授 (20222200)
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研究分担者 |
香川 敬生 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (50450911)
久世 益充 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 准教授 (30397319)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地震動分布 / 不確定性 / 分解と合成 / 予測シナリオ / 地震リスク評価 / 津波浸水深分布 |
研究実績の概要 |
シナリオ地震動予測地図における複数ケースの断層パラメータの設定の違いが,予測震度の空間分布形状の類似性・非類似性に与える影響について検討した.糸魚川-静岡構造線断層帯中北部,深谷断層帯,石狩低地東縁断層帯主部,山崎断層帯主部南東部,上町断層帯,石狩低地東縁断層帯南部の6つの断層帯を対象として,予測震度分布の非類似性の尺度として距離行列を求め,階層的クラスター分析を適用して特徴分類を行った.さらに主成分分析による主成分得点の二次元布置によって,予測震度分布の類似性・非類似性に及ぼす断層パラメータの影響について考察した.影響要因として,アスペリティの設定方法(位置・大きさ),破壊開始点の設定方法,地震モーメントの大小の違い,の3点を挙げ,6断層それぞれの特徴を明らかにした.また,石狩低地東縁断層帯主部による予測震度分布と北海道胆振東部地震の観測震度分布の類似度評価を通じて,実地震の観測震度分布が複数ケースの予測震度分布に占める位置づけを明らかにした. また,超大すべり域および大すべり域の配置条件を変えた複数ケースの津波浸水深分布における空間分布特性の評価手法として,非負値行列因子分解(NMF)を応用した方法を提案した.非負値行列因子分解の初期化手法として本研究では,標準的な一様乱数による方法と,非負2重特異値分解による方法(Boutsidis and Gallopoulos, 2008)を適用した.南海トラフ巨大地震による11ケースの津波浸水深分布に非負値行列因子分解を適用して,基底ベクトルによって浸水深の空間的な分布特徴をマップ表現し,初期化手法の違いが評価結果に及ぼす影響について考察した.結合係数行列のスパース性および空間分布特性の抽出の両面において,非負2重特異値分解による方法は,一様乱数による方法よりも優位であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の2020年度においては,本研究課題で計画している6項目(①地震動分布の予測サンプルの生成,②地震動分布の分類手法の開発,③地震動分布の分解手法の開発,④地震動分布の合成手法の開発,⑤地震リスク評価のケーススタディ,⑥予測シナリオの構成方法の体系化)のうち,主として①②を行ったが,③についても先行して基礎的検討を行った. 「①地震動分布の予測サンプルの生成」に関しては,香川(2015)の方法により,特性化震源モデルのパラメータ(地震モーメント,すべり継続時間,破壊伝播速度,アスペリティの面積と配置,応力パラメータ,破壊開始点など)のばらつきを考慮して,多数ケースの強震動計算を行い,地震動強度の予測サンプルを生成して,次年度以降の準備を整えた.「②地震動分布の分類手法の開発」については,階層的クラスター分析と主成分分析を用いて,予測震度分布の予測震度分布の類似性・非類似性に及ぼす断層パラメータの影響について考察した(研究実績の概要を参照).「③地震動分布の分解手法の開発」に関しては,分析手法が物理量の種類に関わらず適用可能な普遍性を持つことから,津波浸水深分布を対象とした検討を行った(研究実績の概要を参照). コロナ禍の影響で,①②に関する調査・研究打ち合わせ,および,成果発表(国内外の口頭発表)の一部を見送らざるを得なかったが,③を先行して実施したことにより,全般的には概ね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
「②地震動分布の分類手法の開発」では,6地震のシナリオ地震動予測地図の複数ケースを用いた分析を扱ったが,いずれの地震も「強震動予測のレシピ」に基づく少数ケースを対象としている.今後は「①地震動分布の予測サンプルの生成」の成果を活かして,より多数のケースのシミュレーションが行われている工学的基盤レベルでの地震動分布にクラスター分析を応用し,断層パラメータ設定と地震動分布との関係を明らかにし,シナリオ地震の設定方法について考察を進める方針である.また手法面では,自己組織化マップ(SOM)を用いた分類・可視化による方法について検討を進める予定である.それらの取り組みを通じて,「③地震動分布の分解手法の開発」および「④地震動分布の合成手法の開発」に繋げる方針である.なお本年度は,地震動分布として震度分布を扱ったため,水平2成分の特性の相違について考慮する必要がなかった.しかし今後,最大値指標(地表面加速度・速度),応答スペクトル分布(短・中・長周期)を対象とするにあたり,地震動の水平2成分の特性についても検討が必要であり,その取り組みを進めつつある. また今年度,先行して実施した「③地震動分布の分解手法の開発」に関しても,対象としたのは11ケースの浸水深分布であり,少数ケースに留まっている.浸水深の空間分布特性と津波断層パラメータとの関連性や空間分布を網羅するために必要な基底数などについては,さらに検討が必要である.防災科学技術研究所の津波ハザードステーション(J-THIS)では,「波源断層を特性化した津波の予測手法(津波レシピ)」に基づき,すべり角やすべり量,震源域の組み合わせなどが異なる多種多様な津波断層モデルによる浸水深分布が想定されている.これによりさらに多様な浸水深分布を対象とした検討が可能になると考えられる.
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