研究課題
本研究は、先行科研費研究課題で構築した離島火山観測システムを基盤とした技術開発研究とリアルタイム監視手法の確立を目指したものであったが、2020ー2021年度に東京都の離島火山の西之島新島近海で実施した完全自立航走観測中において、本システムの推進機構上における潜在的な問題が明らかとなった。これは、2020年12月末から2021年1月初旬にかけて画像解析で認められた火山噴火に対応し、ハイドロフォンならびにマイクロフォンにおいても記録された特徴的な孤立波において、実はこの波形には推進機構であるグライダーの機械的振動によるマイクロフォンセンサーの非線形応答成分が乗じていたことが判明したというものである。特に、火山噴火活動で励起した音波の卓越周期が1秒程度の場合、水中グライダーのフリップ振動周波数が同調するためこの非線形現象が顕著となる問題点については昨年度研究実績概要欄においても報告済みである。一方、2022年1月15日に発生したフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴う水中音波を、近傍で観測中のフロート式ハイドロフォンアレイ(MERMAID)で検出することに成功した。更に、マリアナ近海および鬼界カルデラ火山近海の海底から回収された海底電位差磁力計ならびに海底微差圧計・広帯域地震計アレイ観測記録上においても火山噴火に伴う地震、水中音波および気象津波が検出された。気象津波は、大気・海洋結合系の波動現象として説明されるもので、1883年クラカタウ火山噴火時観測以来の非常に希少な現象である(Harkrider and Press, 1967)。一方、今回観測された爆発的噴火に伴う気象津波は全世界中を伝播し、各地の沿岸における津波到来時刻が示したように、通常の地震性津波よりも理論的有意に早く到着するため、防災科学的側面からも本現象を深く理解することは非常に重要である。
2: おおむね順調に進展している
2022年1月15日にトンガ近海で発生した爆発的火山噴火に伴う水中音波を直近で観測中の浮遊式ハイドロフォンで取得し、新たな知見が得られた。
2022年1月15日のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山噴火に関する先行研究から、この爆発的噴火により発生した気象津波は大気波動伝播に伴うものであったこと、またその卓越波はLamb波(伝播速度~300 m/s)とPekeris波(伝播速度~240 m/s)であったこと、特に後者については伝播速度が海洋重力波のそれと同程度であることから津波増幅に重要な役割を果たしていたことが示唆されている(例えば、Kubota et al., 2022; Suzuki et al., 2023)。一方、私たちの研究グループでは独自の海底地球物理観測を1999年以降継続的に実施している。当該噴火時においては、2016年から2022年の九州鬼界カルデラ火山‘近海および2020年から2021年のマリアナ近海に大規模な広帯域地震計・微差圧計・電位差磁力計によるアレイ観測網を展開しており、他には類を見ない多角的観測による噴火に伴う地震、水中音波および気象津波記録を取得したことになる。更に、2018年からは当該火山の極近海において、水中浮遊式ハイドロフォン観測網(MERMAID)を日仏米中の4カ国共同で50台規模で展開しており、直近観測での水中音波波形記録を取得した。これまでに、近地水中音波記録上に検出された噴火活動イベントの殆どは、グローバル地震観測網の遠地地震波形記録解析から推定された一連のイベントとよい対応付けがされるが(Tarumi and Yoshizawa, 2023)、それら以外にも複数の明瞭なイベントが波形解析から認められる。今後の推進方策として、それらの未認定イベント含むすべての噴火活動の時間推移を明らかにするべく、詳細なアレイ波形解析を行う計画である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (27件) (うち招待講演 2件)
Physics of the Earth and Planetary Interiors
巻: 334 ページ: -
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