本研究では,結晶内部に形成される多様で複雑なイオン伝導経路網を解析することで,結晶構造とイオン伝導性の相関を理解する新しい方法論の構築を目指す.特に,種々酸化物結晶中におけるプロトン伝導経路の第一原理解析結果に対してこの方法論を適用することで,ホスト酸化物の結晶構造とプロトン伝導性の相関を包括的に理解することを最終目標とする. 前年度までに,結晶内のイオン伝導経路網を重み付き有向グラフとして表現することが有効であることを見出し,酸化物中におけるプロトンのPESデータを重み付き隣接行列およびラプラシアン行列へデータ変換するプログラムを作成している.また,伝導経路網を表現した重み付き有向グラフから拡散係数を算出するプログラムを作成し,Githubにて公開している.一方,種々酸化物中におけるプロトンのPESの系統的な第一原理評価に遅れが生じており,最終年度開始当初においても,対称性が低くユニットセルが大きい約20構造について,十分な精度でPES評価ができていない状況であった.そこで,最終年度では,PES評価に用いているガウス過程に基づくベイズ最適化手法の改良に着手した.本手法の難点は,基本的に1つの系に対して同時に評価できるPE点数がただ1つであったが,これを並列計算可能にすることで,評価速度を向上することに成功した.その結果,評価が遅れていた酸化物に対するプロトンPES評価を研究期間内に完了することができた.一方,本研究の最終目標であるホスト酸化物の結晶構造とプロトン伝導性の相関については現在検討中であり,依然として包括的な理解には至っていない.
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