新規物質の発見は無機物質合成に携わる研究者の重要なターゲットである。既知物質の機能を大きく凌駕する新規物質が発見できれば、物性発現機構の理解を深化するだけでなく、産業のイノベーションにも繋がることが期待される。未知物質探索をこれまで以上に加速するために、ロボット協働合成実験による大規模な合成条件データベースと、研究代表者が開発した合成条件推薦システムとの組み合わせた物質探索手法を着想した。本研究では、まず30の元素を対象とした擬二元系酸化物で合成実験と推薦システムの連携を行い、獲得したデータを基に擬三元系酸化物の合成条件予測に拡張する。本研究により、これまで各合成研究者の勘と経験に基づいていた合成指針を、大量の合成データと推薦システムに基づいて定量的に表現することを目指した。 当該年度ではロボット協働の錯体重合法と固相反応法による擬三元系酸化物の合成データベース作成と、擬三元系酸化物用のテンソル分解型推薦システムの構築を行った。両方の合成手法で共通の目的物質を約200程度設定し、それぞれ別に1000件程度の合成実験を行い各試料の粉末X線回折法による相同定結果を整理した。前年度までに行った擬二元系酸化物における推薦システムの予測精度に比べ、交差検証による予測精度が低下したが、これは探索空間と学習データ数の比が異なるためであると思われる。推薦システムにより合成可能性が高いと予測された合成条件と、ランダムに選択した合成条件を追加した場合、前者の方が推薦システムの予測精度向上が期待できることが分かった。
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