研究課題/領域番号 |
20H02428
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西井 準治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60357697)
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研究分担者 |
小野 円佳 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (20865224)
石山 智大 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (30760194)
小俣 孝久 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (80267640)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プロトン / ガラス / 伝導度 / リン酸塩 / イオン交換 / MAS-NMR / ラマン散乱スペクトル |
研究実績の概要 |
250~500℃の無加湿雰囲気で作動する中温作動型燃料電池(ITFC)は、低炭素社会の実現に向けて実用化が期待されている。本研究では、これまで取り組んできたNa2O-La2O3-GeO2-P2O5ガラスのGeをSiに置換することで化学的耐久性に優れたガラスを作製した。その後、電気化学的にナトリウムイオンをプロトンに置換することでプロトン伝導性を付与し、その伝導特性とガラス構造との相関を調べた。 濃淡電池および直流分極測定より、APS前のキャリヤーはナトリウムイオン、APS後はプロトンであることを確認した。APS後の伝導度はGe系の方がSi系よりも高かった。HEXRD測定より、Geの平均配位数は5.7であった。一方、Siの場合はSi-Oの回折ピークがP-Oのピークと重なるため、MAS-NMRで配位構造を解析した。その結果、Siの約70%が6配位(以降Si(6))で、残りは4配位(Si(4))であった。APS前のラマン散乱スペクトルを測定したところ、1200 cm-1付近のO-P-O全対称伸縮振動ピークが、Q2(非架橋酸素を2つ含むPO4)と、Q2の片方の非架橋酸素がSi(6)と強く結合したユニット(Q2(Si)と表記)に帰属された。 本研究とほぼ同時期に、第一原理分子動力学計算で、Si(4)はQ2と結合するためプロトン伝導を大きく阻害しないが、Q2(Si)に配位したプロトンは長距離移動できないことが報告された。つまり、Q2(Si)の存在がSi添加系ガラスの低い伝導度に影響していると考えられる。一方、Ge添加系でもQ2(Ge)の存在が考えられるが、O-P-O全対称伸縮振動ピークがSi系のように分離しない。これは、PO4とGe(6)の結合がSi(6)よりも弱いことを示唆しており、結果的にプロトン伝導が高くなると考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、pブロック元素含有ガラスに着目し、組成およびガラス構造とプロトン伝導度の相関を明らかにすることを目指している。pブロック元素を選択した理由は、各種スペクトロスコピーでガラス構造を明確に決めることができるからである。 当初の目標通り、ラマン散乱、MAS-NMRおよび高エネルギーX線回折などを駆使することにより、ガラス中のPO4ユニットの構造、およびその周囲に存在するpブロック元素との配位構造がプロトン伝導に大きく影響することが明らかになりつつある。今年度注目したSi系については、第一原理分子動力学シミュレーションで予測されたプロトンのトラップ現象が実際に存在することを実験で証明することができた。 一方、化学的耐久性ではやや劣るものの、Ge系ではそのようなトラップ現象が起こらず、その理由はGeO6八面体の大きさがSiO6八面体よりも大きく、そのために隣接するPO4ユニット間の距離が離れるため、プロトンのトラップサイトにならないからであると推察される。 以上の知見をもとに、Si以外のpブロック元素でGe系よりも化学的および熱的耐久性に優れたガラス系を見出すことができれば、高いプロトン伝導度と耐久性とを兼ね備えた新たな固体電解質が得られる可能性があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって、Na2O-La2O3-SiO2-P2O5ガラスは高い化学的耐久性を示すにも関わらずプロトン伝導度が期待値よりも低いことが明らかになった。その原因は強固なSiO6ユニットと結合しているPO4ユニット間の距離が短く、そこがトラップサイトとなってプロトンが長距離移動できないためであった。一方、リン酸塩ガラス中のGeはSiと同様に6配位であるが、プロトン伝導を阻害しない。その理由は、GeO6と結合するPO4ユニット間の距離が長いためであると推察された。しかしながら、GeO2は耐水性が低く、リン酸塩ガラスの化学的耐久性向上への寄与は低い。 以上の知見より、Siと同様に化学的耐久性の向上に寄与し、かつPO4ユニット間の距離を引きつけない(トラップサイトとして寄与しない)元素を見出すことができれば、伝導度を犠牲にすることなく耐久性を向上できる可能性がある。 その方針に沿う可能性がある元素はアルミニウムであると考えられる。アルミニウムは酸素との結合距離がSiよりも長く、3価であるため、周囲の酸素の電子を強く引きつけない中性酸化物である。したがって、Q2-SiO(6)-Q2のようなプロトントラップサイトが形成されにくいと期待される。これまでにNa2O-Al2O3-P2O5系ガラスの多くの論文が報告されており、安定なガラス組成は容易に調査できる。ブレークスルーすべきポイントは、結晶化することなくナトリウムをプロトンに置換できるかどうかである。3成分系で置換が困難な場合は、シリコンやゲルマニウムを少量添加するなど、組成の微調整を行いつつ90%以上の置換率、プロトン伝導度0.01S/cmを目指す予定である。
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