研究実績の概要 |
本研究では、中温域燃料電池への応用を目指して、リン酸塩ガラス中のアルカリをプロトンに置換(APS)することによって大量のプロトンを含有する電解質の開発に取り組んだ。ガラス組成は、30NaO1/2-12SiO2-58PO5/2(mol%、以降NSPと表記)と30NaO1/2-12AlO3/2-58PO5/2ガラス(以降NAP)である。両者共に95%以上のAPS置換率で、NAPのプロトン伝導度はNSPよりも20倍高く、350℃付近で0.008 S/cmであった。 APS処理後のNSPとNAPのプロトン伝導度が著しく異なる要因を解明するために、IR,NMR,XPS,ラマン散乱などのスペクトル解析を行った。まず、APS後のNSP,NAP中のOH基の吸収ピーク位置をIRスペクトルで確認したところ、それぞれ2650cm-1と2850cm-1であり、予想に反してOH結合が弱いNSPの方が伝導度が低かった。一方、APS後のガラス中のSi、Alの配位構造をNMRで調べたところ、両者共に全て6配位であった。また、PのNMRより両ガラス中のPO4ユニットも類似しており、それぞれSiあるいはAlと配位したQ2(2個の非架橋酸素の1つがAlあるいはSiと配位した状態)であった。 最近、第一原理分子動力学シミュレーションで、リン酸塩ガラス中の2つのQ2がSiに配位するとQ2間の距離が短くなり、プロトンがトラップされて長距離移動できないことが報告された。この結果は本研究のNSPの低い伝導度を裏付けている。一方、NAP中のプロトンはトラップされず長距離移動できる理由は、Al-Oの結合距離(1.98Å)がSi-Oの距離(1.76Å)よりも長く、Q2間の距離が離れるため、プロトンがトラップされないと考えられる。また、XPSで見積もられるQ2の酸素の電子密度はNAPの方が高いことも伝導度の結果と矛盾が無い。
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