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2020 年度 実績報告書

ネットワーク断片化がもたらす酸化物ガラスの特異な物性と構造

研究課題

研究課題/領域番号 20H02429
研究機関弘前大学

研究代表者

増野 敦信  弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (00378879)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード無容器法 / 赤外透過 / 高硬度 / 熱拡散率
研究実績の概要

本研究の目的は,(1)ネットワークが断片化する組成域で新規ガラス合成を行うこと,(2)それらのガラス構造を短距離だけでなく中距離まで包含する階層的視点から理解し,ガラス形成メカニズムを解明すること,(3)各種物性を支配する構造学的特徴を抽出し,ネットワーク断片化を積極的に利用するための材料設計指針を確立すること,である.
一年目である今年度は主にR2O3-B2O3系(Rは希土類元素)において,大きな進展が見られた.これまでにLa2O3-B2O3系では,La-rich組成でガラス化すること,全てのBは孤立BO3として存在していること,そして赤外域に新しい透過領域が出現することを見いだしていた.最近この現象は,Laを他の希土類に変えても普遍的に見られることがわかったが,それだけでなく希土類を多く含む組成のガラス形成メカニズムが,競合する結晶の構造と強い相関があることを明らかにした.各種先進的構造解析手法により,B-Oネットワークが存在しない状況でのガラス化が,最密充填構造からのずれによるランダムパッキングによるものと解き明かしたことは重要な成果である.
AO-SiO2系(Aはアルカリ土類金属元素)では,修飾酸化物としてMgOとCaOを混合することで,単純二元系では見られなかった孤立SiO4のみで成り立っているガラスの合成に成功した.これらのガラスは,通常のネットワーク系ガラスよりも高硬度,高弾性率を有していたが,これはネットワークの断片化にともなって,充填密度が大幅に増加したことに起因すると思われる.また,新たに熱拡散率を測定したところ,SiO4ネットワークの断片化度やMgOの量に依存して大きく変化することを見いだした.今後,ネットワークの断片化度と熱特性との相関を,構造学的に明らかにすることになる.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

R2O3-B2O3系(Rは希土類元素)では,Ceを除くすべてのRに対してガラス化範囲は希土類が豊富な組成側に大きく拡張され,組成をxR2O3-(100-x)B2O3とすると,R = La, Pr, Ndでxの最大値は63にまで達した.xの最大値はRの種類に依存しており,R3+のイオン半径の減少とともに減少していた.充填密度はR3+のイオン半径が小さくなるほど大きくなる傾向がみられた.ラマン散乱とFT-IRスペクトルから,R-richな組成域におけるB周囲の局所構造は,3次元ネットワーク構造を持たない孤立BO3ユニットであることを明らかにした.ガラス中のB周囲の局所構造の単純化により,多様なB-O振動による赤外吸収が抑制された結果として,新たなの赤外透過領域が得られたと考えられる.高エネルギーX線回折の結果から,ガラス構造は高温型NdBO3型構造に類似していることがわかった.このことは,x = 50付近では,融液,ガラス,結晶の構造の類似性がガラス形成能に強く影響していることを示唆している.R-rich組成のガラスが有する特異的に大きな充填密度に注目して,硬さや弾性率を計測したところ,従来のガラス系でよく用いられているMakishima-Mackenzie式による予測値よりもおよそ2倍の値を示すことがわかった.現在その起源の解明を試みている.
厚さ500ミクロン程度のガラス板の熱拡散率が測定可能となったため,まずはSiO4ネットワークの断片化と熱特性との相関を明らかにするべく,AO-SiO2系ガラスについて,合成と物性計測を行っている.SiO4ネットワークの断片化度と熱特性の間には単純な線形関係は見られていないが,これには修飾酸化物の連結が影響している可能性がある.熱を運ぶフォノンがガラスの中でどのように存在しているのかを,詳細に調べる必要がある.

今後の研究の推進方策

当初の研究計画に挙げたガラス系,R2O3-B2O3系(Rは希土類元素),AO-Al2O3-P2O5(Aはアルカリ土類金属元素),MgO-P2O5-SiO2,AO-SiO2-B2O3系(Aはアルカリ土類金属元素),それぞれにおいて,修飾酸化物を多く含む組成域で順調に新しいガラスが見いだされている.また,R2O3-SiO2系でも新たなガラス化に成功しており,新材料開発の点では極めて順調に進んでいるといえる.これらのガラスはいずれもネットワークの断片化が進行していることが,Raman散乱分光やMAS NMRなどによって明らかにされた.興味深い点として,これらネットワーク断片化ガラスには共通した物性が現れることがある.例えば,赤外での新しい透過領域の出現や,高硬度,高弾性率,高いガラス転移温度などである.そして最近高い熱拡散率も共通項であることがわかってきた.今後は合成した新しいガラスすべてについて,これらの特性を評価することになる.
赤外透過性や熱特性には,ガラス中の原子の振動状態が関係していることから,現在,分子動力学シミュレーションによる再現を試みている.機械特性の中では弾性率がシミュレーションから計算可能であり,実験結果を再現できるような手法を検討している.
原子配列自体の評価として通常の手順では,構造モデルから局所構造の種類や結合角,リング分布などを定量化したところで終了となる.ただしネットワーク断片化ガラスの構造的特徴を,ネットワークガラスやパッキングガラスと比較して理解するには,従来行われているような方法では不十分である.そこで今後は,離散データ解析手法として知られるパーシステントホモロジー(PH)解析を導入する.構造モデルの三次元原子配列はまさに離散データであり,PH法により,ガラスのトポロジーについてこれまで見落とされていた特徴を抽出できることが期待される.

  • 研究成果

    (21件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (3件)

  • [雑誌論文] First-principles molecular dynamics simulation study on Ti4+ ion in aqueous sulfuric acid2021

    • 著者名/発表者名
      Choe Yoong-Kee、Tsuchida Eiji、Tokuda Kazuya、Otsuka Jun、Saito Yoshihiro、Masuno Atsunobu、Inoue Hiroyuki
    • 雑誌名

      AIP Advances

      巻: 11 ページ: 035224~035224

    • DOI

      10.1063/5.0038060

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Structure and properties of densified silica glass: characterizing the order within disorder2020

    • 著者名/発表者名
      Onodera Yohei、Kohara Shinji、Salmon Philip S.、Hirata Akihiko、Nishiyama Norimasa、Kitani Suguru、Zeidler Anita、Shiga Motoki、Masuno Atsunobu、Inoue Hiroyuki、et. al.
    • 雑誌名

      NPG Asia Materials

      巻: 12 ページ: 85

    • DOI

      10.1038/s41427-020-00262-z

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Revealing Spatial Distribution of Al-Coordinated Species in a Phase-Separated Aluminosilicate Glass by STEM-EELS2020

    • 著者名/発表者名
      Liao Kunyen、Masuno Atsunobu、Taguchi Ayako、Moriwake Hiroki、Inoue Hiroyuki、Mizoguchi Teruyasu
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry Letters

      巻: 11 ページ: 9637~9642

    • DOI

      10.1021/acs.jpclett.0c02687

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Influence of modifier cations on the local environment of aluminum in La2O3-Al2O3 and Y2O3-Al2O3 binary glasses2020

    • 著者名/発表者名
      Watanabe Yasuhiro、Masuno Atsunobu、Inoue Hiroyuki、Yanaba Yutaka、Kato Katsuyoshi
    • 雑誌名

      Physical Chemistry Chemical Physics

      巻: 22 ページ: 19592~19599

    • DOI

      10.1039/D0CP02778B

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Structural Origin of Additional Infrared Transparency and Enhanced Glass-Forming Ability in Rare-Earth-Rich Borate Glasses without B-O Networks2020

    • 著者名/発表者名
      Sasaki Shunta、Masuno Atsunobu、Ohara Koji、Yanaba Yutaka、Inoue Hiroyuki、Watanabe Yasuhiro、Kohara Shinji
    • 雑誌名

      Inorganic Chemistry

      巻: 59 ページ: 13942~13951

    • DOI

      10.1021/acs.inorgchem.0c01567

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Principal Vibration Modes of the La2O3-Ga2O3 Binary Glass Originated from Diverse Coordination Environments of Oxygen Atoms2020

    • 著者名/発表者名
      Yoshimoto Kohei、Masuno Atsunobu、Sato Itaru、Ezura Yoshinobu、Inoue Hiroyuki、Ueda Motoi、Mizuguchi Masafumi、Yanaba Yutaka、Kawashima Tatsunori、Oya Tomoki、Onodera Yohei、Kohara Shinji、Ohara Koji
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 124 ページ: 5056~5066

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.0c02147

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Very sharp diffraction peak in nonglass-forming liquid with the formation of distorted tetraclusters2020

    • 著者名/発表者名
      C. Koyama, S. Tahara, S. Kohara, Y. Onodera, D. R. Smabraten, S. M. Selbach, J. Akola, T. Ishikawa, A. Masuno, A. Mizuno, J. T. Okada, Y. Watanabe, et. al.
    • 雑誌名

      NPG Asia Materials

      巻: 12 ページ: 43

    • DOI

      10.1038/s41427-020-0220-0

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Real-Space Mapping of Oxygen Coordination in Phase-Separated Aluminosilicate Glass: Implication for Glass Stability2020

    • 著者名/発表者名
      Liao Kunyen、Haruta Mitsutaka、Masuno Atsunobu、Inoue Hiroyuki、Kurata Hiroki、Mizoguchi Teruyasu
    • 雑誌名

      ACS Applied Nano Materials

      巻: 3 ページ: 5053~5060

    • DOI

      10.1021/acsanm.0c00196

    • 査読あり
  • [雑誌論文] An XAFS study of the local structure of Eu3+ ions in glasses prepared by a levitation technique2020

    • 著者名/発表者名
      INOUE Hiroyuki、MASUNO Atsunobu、SAITO Atsuki、WATANABE Yasuhiro、TOKUDA Kazuya、SAITO Yoshihiro、IIHARA Junji
    • 雑誌名

      Journal of the Ceramic Society of Japan

      巻: 128 ページ: 279~283

    • DOI

      10.2109/jcersj2.20043

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Accurate Synchrotron Hard X-ray Diffraction Measurements on High-Temperature Liquid Oxides2020

    • 著者名/発表者名
      K. Ohara, Y. Onodera, S. Kohara, C. Koyama, A. Masuno, A. Mizuno, J. T. Okada, S. Tahara, Y. Watanabe, H. Oda, Y. Nakata, H. Tamaru, T. Ishikawa, O. Sakata
    • 雑誌名

      International Journal of Microgravity Science and Application

      巻: 37 ページ: 370202

    • DOI

      10.15011/jasma.37.2.370202

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 無容器法で合成した機能性酸化物ガラスの物性と構造2021

    • 著者名/発表者名
      増野敦信
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会共催シンポジウム 多様な物質に潜む「超秩序構造」-構造物性研究の新展開-
    • 招待講演
  • [学会発表] 亜鉛を含む模擬ガラス固化体の局所構造解析2021

    • 著者名/発表者名
      増野敦信,三浦吉幸,兼平憲男,岡本芳浩,簗場豊,井上博之
    • 学会等名
      日本セラミックス協会2021年年会
  • [学会発表] Bi2O3-SiO2-Al2O3ガラスの構造と誘電特性2021

    • 著者名/発表者名
      吉田健太,増野敦信,簗場豊,井上博之
    • 学会等名
      日本セラミックス協会2021年年会
  • [学会発表] A3B2Si3O12ガラス(A:アルカリ土類金属, B:希土類, Sc, Y)の物性と構造2021

    • 著者名/発表者名
      熊谷賢人,増野敦信,簗場豊,井上博之
    • 学会等名
      日本セラミックス協会2021年年会
  • [学会発表] 希土類ボレートガラスの構造と機械特性2021

    • 著者名/発表者名
      佐々木俊太,増野敦信,簗場豊,井上博之
    • 学会等名
      日本セラミックス協会2021年年会
  • [学会発表] Structural analyses of nuclear waste glasses in Japan2020

    • 著者名/発表者名
      A. Masuno
    • 学会等名
      Glass Meeting 2020
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Bi2O3-SiO2-Al2O3ガラスの構造と物性2020

    • 著者名/発表者名
      吉田健太,増野敦信,簗場豊,井上博之
    • 学会等名
      日本セラミックス協会第33回秋季シンポジウム
  • [学会発表] 無容器法により合成した三次元ネットワークを持たない希土類高含有ボレートガラスの物性と構造2020

    • 著者名/発表者名
      佐々木俊太,増野敦信,尾原幸治
    • 学会等名
      日本セラミックス協会第33回秋季シンポジウム
  • [備考] 弘前大学理工学部物質創成化学科 増野研究室

    • URL

      http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~masuno/

  • [備考] 【プレスリリース】世界一構造秩序のあるガラスの合成と構造解析に成功

    • URL

      https://www.hirosaki-u.ac.jp/53218.html

  • [備考] 【プレスリリース】アモルファス構造の解明に一歩前進 ~原子の配位数を可視化~

    • URL

      https://www.hirosaki-u.ac.jp/52240.html

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公開日: 2021-12-27  

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