蛍石型構造中のカチオンサイトのdx2-y2軌道はGamma点において非結合性軌道を形成し、エネルギー的に深くなることが分かっている。今年度はLaH3に着目しその物性を調べた。LaH3はバンドギャップが1.5eVほどの直接遷移型の半導体である。伝導帯はLaの5d、価電子帯はヒドリドの1s軌道から成る。La-5dから成る伝導体のエネルギー位置は電子ドーピングできるほど浅くなっていると考えられるが、ヒドリドの1s軌道からなら価電子帯の真空準位を基準としたエネルギー位置はこれまで決定されたことが無く予想が難しい。そこでUPSとPYSを用いてLaH3の仕事関数、価電子帯上端位置を調べた。 LaH3の仕事関数、価電子帯上端位置はそれぞれ2.5eV、-3.5eVとなった。半導体をLEDに応用するには、電子と正孔がドーピングし、n型、p型化出来なくてはいけない。一般に正孔は価電子帯上端位置が-6eVよりも浅いとドーピングが出来るようになると言われている。しかし、イオン性化合物ではアニオンp軌道から成る価電子帯は深く、正孔ドーピングが難しい。そこで、Cu+やSn2+などの充填dやs軌道をアニオンp軌道と反結合性相互作用させることで価電子帯のエネルギー位置を押しあげる戦略が取られる。そのため、これらカチオンの充填軌道を使っていないにもかかわらず非常に浅い価電子帯を持つLaH3は珍しい。これは水素の電気陰性度が酸素や硫黄、フッ素よりも小さく電子を離しやすいことやLaH3中のH間距離が約2.4Aとヒドリドのイオン半径のちょうど倍ほどで短く、s軌道間に大きな反結合性相互作用が起こったためと考えられる。本結果は、ヒドリドを使っても半導体をp型化できる可能性を示唆しており、新しいp型半導体の設計指針となり得る。
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