研究課題/領域番号 |
20H02435
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
松田 晃史 東京工業大学, 物質理工学院, 講師 (80621698)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ニッケル酸塩 / エピタキシャル薄膜 / 異原子価置換 / 固相エピタキシー / ニッケル酸塩 / 層状ペロブスカイト構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,Ni-O無限構造をもつニッケル酸塩結晶について,カチオンの異原子価イオン置換が異方性の高い特異なNi-O無限構造と電子物性に及ぼす影響を追究するものである。 平面正方配位NiO4型の無限層構造を含む結晶構造を示すエピタキシャル薄膜の創製,その構造・物性における異原子価イオンによるLa3+置換効果の解明を目的として,非平衡条件下の薄膜合成および固相反応による相(層数)選択的なエピタキシー,および構造・カチオン価数と物性制御について検討した。 KrFパルスエキシマレーザ(波長248nm,5eV相当)を用いたパルスレーザ堆積(PLD)法によりRuddlesden-Popper(RP)相Lan+1NinO3n+1薄膜をペロブスカイト型NdGaO3およびLaAlO3単結晶基板上に合成し,O2雰囲気中でのアニーリングによる固相エピタキシャル薄膜合成を行った。ここでは成膜温度・O2圧をパラメータとした検討を行い,Ni2+からNi2.66+のカチオンからなる2層型La3Ni2O7および3層型La4Ni3O10のエピタキシャル薄膜を得た。アニーリング温度・O2圧を条件とした熱処理により,LaNiO3エピタキシャル薄膜も合成し,2層から無限層までの相選択的なRP層薄膜合成とNiカチオン価数制御を得た。 La3+に対する異原子価Sn4+およびHf4+の共ドーピングを行い,ドーパントによる構造歪みの導入と導電性変化を見出した。 また,単純NiOリファレンス薄膜を用い,エキシマ光照射によるNi2+→Ni3+の制御および構造制御,またH2を用いたトポタキシャル還元,すなわちNiカチオン価数制御のプロセスを見出した。一方,薄膜の高真空・高温H2アニーリングによるNiイオン価数の過大な還元となり,アニーリング条件のさらなる最適化の要求が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究では,多層型Ruddlesden-Popper(RP)相の高配向薄膜,および異原子価ドーピングとカチオン価数制御について,以下の実験的結果および知見が得られている。 ① 原子ステップを有する単結晶NdGaO3 (110)およびLaAlO3 (100)基板を用いたPLD薄膜合成により,3層型RP層La4Ni3O10 (001),2層型La3Ni2O7 (001)エピタキシャル薄膜を相選択的に得た。 ② また,赤外線集光加熱炉を用いた大気圧O2下のアニーリングと併せることにより,無限層型LaNiO3 (001)エピタキシャル薄膜の合成を得た。 ③ La3+を置換する異原子価ドーピング効果について薄膜合成と構造・物性変化について検討を行い,2層型においてもHf4+およびSn4+をドーパントとして以下のエピタキシャル関係:La3Ni2O7 (001)<110>//LaAlO3(100)<001>をもつ薄膜合成を得た。であり,薄膜結晶がa軸方位に伸張し歪みが導入されることによりエピタキシーしていることを見出した。 ④ 異原子価(4+)ドーパントにより,既報の酸素欠損型材料に対し,1/100から1/10000倍程度と低抵抗な半導体薄膜を得た。率を大きく改善した半導体挙動を示す。 ⑤ Niカチオン価数において,リファレンスとなるNiOエピタキシャル薄膜を用い,エキシマ真空紫外光照射によるNi2+→Ni3+酸化を伴う~1/10000及ぶ抵抗率変化を見出した。 以上のことから,多層型Ruddlesden-Popper相ニッケル酸ランタンの固相エピタキシーによるエピタキシャル薄膜合成に関する実験的成果,およびドーピングやエキシマ光プロセスによる薄膜構造,カチオン価数と物性制御に対する効果に関する知見が得られており,研究全体はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験研究により得られた多層型Ruddlesden-Popper(RP)相ニッケル酸塩の固相エピタキシャル合成に関する結果および知見を発展させ,無限層構造の創製と構造,および異原子価イオン置換による配位・局所構造と電子状態変化を追究し,結晶・物性制御の指針を立てる。 成膜から固相エピタキシー,トポタキシャル合成までのパラメータと薄膜構造・物性の系統的相関評価について,以下のアプローチを用いて研究を推進する。 (1) パルスレーザー堆積法(PLD)およびO2中の固相エピタキシーにおける薄膜合成条件の精緻化により,カチオン置換型の2層から無限層型のRP相エピタキシャル薄膜を合成し,薄膜構造解析,化学状態解析によりカチオン置換効果を明瞭化する。 (2) 低温H2アニーリングによるソフトトポタクチック還元反応を用いたトポタキシーにより,平面正方型NiO2面をもつの層状構造エピタキシャル薄膜を創製する。 (3) La3+の4+カチオン置換型ドーピングが薄膜構造に与える影響について,高輝度単色X線を用いた構造および対称性の遷移を高精度に解析する。 (4) 層状構造で見出した知見を基に,Ni-O三方プリズム・八面体鎖状構造をもつSr-Ni-O系ニッケル酸塩に展開した新奇薄膜合成を進める。高配向薄膜の合成条件を見出すとともに,Sr2+置換型ドーパントによる構造・物性変化への効果に関する知見を得る。
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