前年度には、電極材料である市販のLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ (LSCF6428)粉末に800℃以下でCO2が微量収着することが明らかになった(表面に1分子層未満付加する量に相当)。 令和5年度は、CO2収着に寄与する固体の表面化学種について調査した。LSCF6428中の酸素空孔濃度δを0.01から0.07の範囲で制御したところ、CO2収着量の明確な変化はみられず、主なCO2収着サイトが酸素空孔である証拠は得られなかった。一方、LSCF6428へのCO2収着上限温度の測定値と熱力学計算の比較により、LSCF表面に微量にSrOが存在しCO2と反応していることが示唆された(LSCF表面へのSrO析出は過去に報告がある)。ただしオージェ電子分光法(AES)によりCO2由来化学種の存在形態の確認を試みたが、電子線照射による局所加熱の影響か分析は困難であった。また、PCFCの代表的な電解質材料であるY置換BaZrO3(BZY)についてもCO2収着挙動を調査し、少なくとも900℃以下で温度低下とともにCO2収着量が増大したが、X線回折では炭酸塩等の生成は確認されなかった。 本研究を通し、LSCF酸素極とBZY電解質を用いたプロトン伝導セラミックス型燃料電池(PCFC)の酸素極への空気供給時の短期的な過電圧増大の気相側の主因はCO2であると特定され、CO2はLSCF酸素極表面に存在する微量のSrOおよびBZY電解質上に収着することが示された。今後、より詳細な要因の切り分けと、CO2収着を抑制するための材料選択指針の構築が望まれる。
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