これまでに、Eu3+添加希土類酸硫化物蛍光体において、紫外線などの光を照射でEu3+の励起状態からホールが価電子帯へ移動することによるホール移動消光の存在を明らかにした。今年度は、Eu3+を添加したCaCO3蛍光体やCaF2蛍光体を作製し、その発光強度の温度依存性を測定した。バンドギャップから予測される通りCaCO3:Eu3+蛍光体もCaF2:Eu3+蛍光体も高い電荷移動遷移エネルギーを有し、Eu3+の励起状態から価電子帯上端までのエネルギー差が大きいために、ホール移動消光の可能性は低いと予測できる。しかしながら、予測される消光温度よりも低い値を示したため、別の消光プロセスが存在していることが示唆された。 また、Cr4+添加蛍光体においても、ホール移動消光の可能性が示唆されたために、Ca3Sc2Si3O12:Cr4+蛍光体を作製し、その近赤外光物性評価を行った。我々は、Ca3Sc2Si3O12結晶ホストにおいて初めてCr4+が近赤外発光を示すことを観測した。Ca3Sc2Si3O12結晶ホストは、他ガーネット組成と比較すると、バンドギャップが大きいため、ホール移動消光が原因であれば高い消光温度が期待されるが、発光強度の温度依存性から他ガーネットホストにおけるCr4+の消光温度と大差なかった。以上より、本蛍光体においては、消光原因は、ホール移動ではなく、熱活性化クロスオーバー過程であると示唆された。なお、Ca3Sc2Si3O12:Cr3+蛍光体も作製し、発光の温度依存性を測定した。この消光原因は、熱活性化クロスオーバー過程であると考えられる。 また、Ni2+添加近赤外蛍光体の温度依存性の研究にも取り組んだ。Ni2+はその価数状態からホール移動消光の可能性は低いと予測されてはいたが、Ni2+蛍光体の消光温度の発光エネルギー依存性から熱活性化クロスオーバー消光であることを確認した。
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