研究課題/領域番号 |
20H02441
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
堀部 陽一 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80360048)
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研究分担者 |
佐藤 幸生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (80581991)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / マルチフェロイック / ドメイン / 局所構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、六方晶マンガン酸化物YMnO3等で出現する、3種類の構造ドメインおよび2種類の強誘電ドメインから成る渦状方向性配置を伴うトポロジカル・ドメイン構造において、「トポロジカル・ドメイン構造の生成・消滅メカニズムを解明するとともに、トポロジカル・ドメイン構造制御の指針構築を目指す」ことである。初年度は、本研究計画において必要不可欠な、良質で大型な単結晶育成のための浮動溶融帯単結晶育成法における条件最適化を行うととともに、電場印加その場観察のためのトポロジカル・ドメイン構造におけるドメインサイズの調整を目的とした。具体的には、 (1)長時間におよぶ六方晶マンガン酸化物YMnO3での浮動溶融帯単結晶育成を行い、得られた単結晶の表面形状および単結晶各部や溶融帯部分の結晶構造について、光学顕微鏡法や粉末X線回折法、過型電子顕微鏡を用いた電子回折法について調べた。 (2)得られた単結晶に出現するドメイン構造について、光学顕微鏡法および透過型電子顕微鏡を用いた明・暗視野法により調べた。 (3)得られた単結晶を高温から様々な速度で冷却し、ドメインサイズの変化について調べた。 その結果、本系での浮動溶融帯単結晶育成の際の溶融帯部分において、Y2O3の体積分率が高くなると共に、Y2O3粒子が単結晶表面に出現することを明らかにした。また単結晶内部には、比較的大きいサイズのトポロジカル・ドメイン構造が観察され、冷却速度の変化に伴いそのサイズが変化することを見出した。これらの結果から、本系での浮動溶融帯単結晶育成において、原料多結晶棒における化学組成調整が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、六方晶マンガン酸化物YMnO3におけるトポロジカル・ドメイン構造の生成・消滅メカニズムを解明するため、まず本研究計画において必要不可欠な良質で大型な単結晶育成のための浮動溶融帯単結晶育成法における条件最適化を行うととともに、電場印加その場観察のためのトポロジカル・ドメイン構造におけるドメインサイズの調整を目的とした。本目的達成のため、浮動溶融帯法を用いた単結晶育成の際の、単結晶および溶融帯部分の化学組成変化および形態変化の解明を目指し、長時間の六方晶マンガン酸化物YMnO3での浮動溶融帯単結晶育成を行った。得られた単結晶の育成初期・中期・後期部分および育成後に凝固した溶融帯部分の表面形状や結晶構造について光学顕微鏡法や粉末X線回折法、透過型電子顕微鏡を用いた電子回折法により調べ、単結晶育成が進行するにつれて溶融帯部分におけるY2O3の体積分率が高くなり、その結果Y2O3粒子が単結晶表面に出現し単結晶品質が低下することを明らかにすることが出来た。また得られた単結晶において光学顕微鏡法および透過型電子顕微鏡を用いた明・暗視野法を用いた観察を行い、試料中に比較的大きいサイズのトポロジカル・ドメイン構造が観察されることを見出すと共に、冷却速度の変化に伴いドメインサイズが変化することを明らかにした。すなわち、本研究目的に関係した必要な良質で大型な単結晶育成のための浮動溶融帯単結晶育成法における条件最適化が達成されたと共に、トポロジカル・ドメイン構造におけるドメインサイズの調整が進んでいると考えられ、本研究はおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、六方晶マンガン酸化物YMnO3における浮動溶融帯単結晶育成の進行に伴い溶融帯部分におけるY2O3の体積分率が高くなり、その結果Y2O3粒子が単結晶表面に出現することで単結晶品質が低下することを明らかにし、本研究目的に関係した必要な良質で大型な単結晶育成のための浮動溶融帯単結晶育成法における条件最適化が達成出来た。また得られた単結晶において比較的大きいサイズのトポロジカル・ドメイン構造の存在を見出すと共に、冷却速度の変化に伴いドメインサイズが変化することを明らかにした。これらの結果を元に、来年度の研究では、本年度の研究において最適化された浮動溶融帯単結晶育成条件を用いて大型で高品質な単結晶を育成し、得られた単結晶から複数の試料を切り出しトポロジカル・ドメイン構造におけるドメインサイズの調整を行った後、収束イオンビーム加工により透過型電子顕微鏡試料作製を行うことで生成過程観察のための単ドメイン透過型電子顕微鏡試料および、消滅過程観察のための高密度ドメイン透過型電子顕微鏡試料の作製を試みる。作製した透過型電子顕微鏡試料に電子顕微鏡内部で直接電場を印加しながら、透過型電子顕微鏡法を駆使したその場観察を行うことにより、トポロジカル・ドメイン構造における強誘電ドメインの生成・消滅過程の動的変化を明らかにする。また同様の浮動溶融帯単結晶育成条件でYMnO3のYサイトの一部をZrイオン等で置換した単結晶試料の作製を行い、得られた単結晶を用いて、電子顕微鏡内部で温度を変化させながらTEM法を駆使したその場観察を行い、TD構造における構造ドメイン成分の生成・消滅過程の動的変化を解明する。
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備考 |
Morphological and Crystallographical Changes in Charge-Ordering Transition of RFe2O4 (R=Y, Lu) by Transmission Electron Microscopy Y. Horibe, et al, (to be prepared to Physical Review B)
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