研究課題/領域番号 |
20H02448
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上田 恭介 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40507901)
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研究分担者 |
成島 尚之 東北大学, 工学研究科, 教授 (20198394)
李 誠鎬 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20850001)
小笠原 康悦 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (30323603)
金高 弘恭 東北大学, 歯学研究科, 教授 (50292222)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生体活性ガラス / 抗菌性 / 骨形成能向上 / ゾルゲル法 / 溶解性 / ディップコーティング |
研究実績の概要 |
チタン製歯科インプラントの骨との迅速・強固な結合およびインプラント周囲炎予防を目的として、チタンへの生体内溶解性ガラス組成の検討およびそのコーティングプロセスを検討した。コーティング膜組成として、骨適合性と生体内溶解性を有するSi-Ca-P-O系生体活性ガラスをベースとし、抗菌性元素(X)、骨形成能向上元素(Y)および溶解性制御元素(Z)を添加したSi-Ca-P-O-X-Y-Z系ガラスに着目した。 コーティング膜組成決定のために、ゾルゲル法にて元素添加生体活性ガラス粉末を合成した。本生体活性ガラス系において、ガラス中に固溶する元素、リン酸カルシウム系結晶相の形成を促進する元素を定量的に明らかした。擬似体液中への溶解性を評価したところ、抗菌性元素の徐放が確認され、抗菌性の発現が期待できる。 コーティングプロセスとしては、ゾルゲル・ディップコーティング法を用いた。本プロセスは安価で簡便にガラスやセラミックスコーティング膜を作製できるものの、基板との密着力が低いことが知られている。そこで、基板であるチタンを活性化処理し、中間層を作製することで、基板と化学的に結合した生体活性ガラスコーティング膜作製を試みた。ゾル組成やディップコーティング条件を制御することで、膜厚数マイクロメートルの均一なコーティング膜作製条件を見出すことができた。 今後は、粉末合成により明らかにした組成の生体活性ガラスをチタン基板上にコーティングし、基板との密着力、擬似体液における溶解性、抗菌性、細胞培養試験による骨適合性を評価する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ゾルゲル法による生体活性ガラス粉末の合成およびゾルゲル・ディップコーティング法によるコーティング膜作製条件を検討した。 生体活性ガラス粉末の合成:60SiO2-36CaO-4P2O5 (mol%, 58S)生体活性ガラスを基本組成とし、抗菌性元素としてAg, Zn, Cuを、溶解性制御元素としてTaを添加したガラスを、ゾルゲル法により作製した。無添加の58S組成においては結晶相が確認されたが、CuおよびZnを添加することで非晶質相となった。ラマン分光分析によりガラスの構造解析を行ったところ、CuやZn添加によりSi-O系のガラス構造の中にPを取り込むことが分かった。Tris-HCl溶液中における溶解性評価試験を行ったが、Siイオン溶出量が高く溶液中で飽和してしまい、ガラス自体の溶解性を評価することができなかった。ただし、添加元素の徐放は確認されたことから、抗菌性の発現が期待される。Taをガラス中に添加することも可能であり、Si-O-Taネットワークを構成することが分かった。一方、抗菌性元素とTaの共添加においては、酸化物形成等が見られ、ガラスを合成することができなかった。 コーティング膜作製条件の検討:ガラス組成として80SiO2-20CaO (mol%, 80S)に着目し、チタン基板上へのゾルゲル・ディップコーティングを試みた。鏡面研磨チタン基板上にはコーティング膜を作製することができなかった。一方、チタンの活性化処理としてNaOH溶液に浸漬し、表面にTi-Na-OHゲル層を作製した基板を用い、コーティング原料溶液(ゾル)の組成、ディップコーティング時における引き抜き速度等を検討した結果、均一な薄膜をコーティング可能な条件を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ガラス組成の検討:ゾルゲル法においては、抗菌性元素と溶解性元素の共添加を行うことができなかった。2022年度は、下記の2つのアプローチにより共添加ガラスの合成を目指す。 1.溶融急冷法によるガラス形成組成の検討:Si-Ca-P-O系生体活性ガラスを母組成とし、抗菌性元素Agおよび溶解性制御元素Taを共添加したガラスについて、系統的に組成を検討する。この検討により、Si-Ca-P-Ag-Ta-O系生体活性ガラス形成組成を明らかにすると共に、新規結晶化ガラスを探索する。2.ゾルゲル法によるガラスの合成:1にて明らかにした組成について、ゾルゲル法によるガラスの合成を試みる。なお、使用する原料や合成手順等も合わせて検討する。 コーティング膜の評価:ゾルゲル・ディップコーティング法およびスパッタリング法によりチタン基板上に生体活性ガラスコーティング膜を作製する。 1.ゾルゲル・ディップコーティング法:中間層作製条件等を検討し、密着力に優れたコーティングプロセスを開発する。加えて、擬似体液浸漬試験による溶解性評価、細胞を用いた骨適合性評価も行い、最適組成およびプロセスを提案する。2.スパッタリング法:スパッタリング法は組成の自由度が高く、低温プロセスであるため、非晶質ガラスコーティング膜を作製可能である。そこで、ゾルゲル・ディップコーティング法では作製できないような組成のコーティング膜を作製し、その特性を評価する。スパッタリング法は鏡面基板上に均一かつ緻密なコーティング膜を作製可能であることから、歯科インプラントのアバットメント部へのコーティングとして期待できる。
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