研究課題/領域番号 |
20H02458
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
正橋 直哉 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20312639)
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研究分担者 |
森 優 東北大学, 大学病院, 助教 (70634541)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インプラント / 生体親和性 / 陽極酸化 / TiNbSn / 光触媒 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、高圧印加を施した酒石酸ナトリウム系電解浴でTiNbSn基板上に陽極酸化でTiO2を成膜し、組織・結晶性・表面化学状態・光触媒機能等を把握した(Appl. Surf. Sci. 543 (2021) 148829に掲載済み)。このTiO2コーテイングTiNbSn合金に対し、乾燥環境ならびに疑似体液中でのsliding摩耗試験を実施した結果、動摩擦係数の著しい低下を確認した。比較材として用いたプラズマ窒化材やTiNスパッタリング材よりTiO2コーテイング材の耐摩耗性は優れており、特に疑似体液中での摩耗性改善は特筆できる(J. Mater. Sci.に投稿中)。そして、本研究資金で購入したTribo-corrosion装置により、体内でおこるfretting摩耗試験を疑似体液中で実施し、体内環境を模した耐摩耗性の評価を実施中である。この装置は国内で初めてのOCP(Open circuit potential)を測定しながら摩耗試験ができる装置で、摩耗挙動を電気化学の観点から調べることができ、製造メーカーにアイデアを出して特注した。すでにfretting摩耗時のOCP降下を確認し、おそらく国内で初めての知見と推察する。一方、抗菌試験は、昨年度試験方法(装置セットアップ、試験片サイズ、照射方法等)の確立を完了し、すでに、大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSAの三種の菌についての抗菌活性値の定量化を行っている。その結果、TiO2コーティングにより抗菌活性値が2を超える高い抗菌性が確認できた。この結果は、特許出願(特願2020-125634)し(現在国内優先権主張のための補正中)、外国学会にて発表(Orthopaedic Research Society_2021 Annual Meeting)した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理由は三点ある。第一は、スパッタリングやプラズマ窒化等、Ti合金の耐摩耗性を改善すると期待される、陽極酸化法と競合する他の表面改質材に比べ、陽極酸化材の耐摩耗性(sliding摩耗)が優れていることを実証できたことである。これにより体内での基板からの摩耗粉の抑制が可能となることがわかり、後述するTribo-corrosion装置で実施するfretting摩耗実験へと展開しやすくなった。第二はOCP(Open circuit potential)測定と静動摩擦係数が同時測定可能なTribo-corrosion装置を特注で製造したが、課題であったOCPの実測に年度末に成功したことである。これまでの摩擦特性は機械試験で評価していたが、本研究材料は体液中で使用するインプラント材であることに着目し、溶液中での電気化学挙動から摩耗を評価することを考え、特注装置を製造した。そして第三は研究分担者(東北大学医学部森助教)が抗菌試験方法を確立し、三種の菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA)で陽極酸化TiNbSn合金の抗菌性を実証したことである。手術の際、インプラント前に行うオートクレーブ殺菌はTiNbSnに逆変態を誘起しヤング率を向上させるため、他の方法による滅菌が期待されている。陽極酸化TiO2は光照射で発生する酸素ラジカル基で殺菌することができると期待していたが、いち早く確認できたことは大きな進捗である。今のところ当初計画より速く進展しており、論文化だけでなく権利化にまで至ったことは大きく、次につながる成果が着実に出ている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、TiO2コーテイングTiNbSn合金で明らかになった疑似体液中でのsliding摩耗試験での優れた耐摩耗性を受け、本年度は、昨年度、本研究資金で購入したTribo-corrosion装置により、体内でおこるfretting摩耗試験を疑似体液中で実施し、OCP値と摩耗係数を同時測定することで、体内環境を模した耐摩耗性の評価を行う。特に試験後の疑似体液をICP測定することで、懸念される摩耗粉や溶出イオン量を定量化し、生体内での安全性の評価を行う。また今年度、本研究資金で設置予定の、薄膜密着強度測定装置にて、陽極酸化膜と基板との密着強度を測定する。摩耗挙動解析に加え基板との密着性の観点も取り入れることで、耐摩耗性メカニズムの新たなモデル構築を目指す。一連の実験では、人工股関節ステム材料として実用されているTi6Al4Vについても同様の試験を実施し、比較検討から陽極酸化TiNbSn合金の優位性を検証する。一方、抗菌試験は、昨年度試験方法の確立が完了し、TiO2コーティングにより抗菌活性値が2を超える高い抗菌性を示すことを明らかにした。そこで、本年度は実際の手術のプロセスを模して光照射時間や照射強度を変えた抗菌試験を行い、実用的な観点からの抗菌試験を行う。また別途行う、メチレンブルー分解試験から光触媒機能と併せ光誘起機能の学術を解明するために、電子スピン共鳴法ならびにテレフタル酸法を用いて、水酸素基ラジカルならびに過酸化水素ラジカルの定量測定を実施する。併せて、現在の電解浴組成とは異なる電解浴としてチオ硫酸ナトリウムに注目し、この電計浴で成膜した陽極酸化TiNbSnについても同様の実験を行い、光誘起機能への電解浴組成(Naに注目している)の影響を明らかにする。以上の実験を通して生体親和性に優れたインプラント用TiNbSn合金の確立を目指す。
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