研究課題/領域番号 |
20H02458
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
正橋 直哉 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20312639)
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研究分担者 |
森 優 東北大学, 大学病院, 講師 (70634541)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インプラント / 生体親和性 / 陽極酸化 / TiNbSn / 光触媒 / 耐摩耗性 / 抗菌性 / 生体親和性 |
研究実績の概要 |
TiNbSn合金はnearβの組成において、塑性加工により加工誘起 α”を安定化し、β<110>とα” <010>の方位を揃えて低ヤング率(36 GPa)とし、応力遮蔽の抑制を可能としている。一方、金属には骨伝導性がないことに加え、人工股関節ではtribocorrosionによる金属イオンや摩耗金属粉の生体への悪影響が報告され、課題解決方法の一つとして、陽極酸化膜の活用を検討している。所定の方法で組織制御を施したTiNbSn合金の板材から25 mm角の板を切り出し、研磨洗浄後、酒石酸NaとH2O2の電解浴中で陽極酸化を施し、組織観察・表面分析・薄膜X線回折に加え、硬度と密着強度を測定し、乾燥ならびにHBSS液中にて摩耗試験を行う。比較のためTiとTi6Al4Vに対して同様の試験を行った。TiNbSn基板の陽極酸化では被膜絶縁破壊によるsparkがおこり、組織は多孔質で、ルチルとアナタースのTiO2複相だが、H2O2添加電解浴成膜材や熱処理材はルチルが増加し、主回折線の半価幅が低下する。比較材はsparkが発生せず、アナタースが主で半価幅は大きい。TiNbSn基板上に成膜した陽極酸化膜のビッカースとナノインデンター硬度、基板密着強度はTiやTi6Al4V基板上酸化膜より高い。摩擦摩耗試験から被膜なしのTiNbSn材のCOFは0.8~1.0と高いが、被膜を施すと乾燥中は0.4~0.6、液中では0.2まで低下する。比較材は乾燥中に比べ液中でのCOF低下はわずかで、試験中の膜剥離によるCOF増加がおこり、摩耗粉が検出されたが、TiNbSn材の検出量は微量であった。TiNbSn基板材の高い基板密着強度と硬度、多孔質組織がアブレッシブ摩耗や凝着摩耗を抑制したと考察した。別途行った、陽極酸化材の抗菌試験と光触媒性能評価試験から現用のTi6Al4V基板陽極酸化材より優れていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)本申請の主目的の一つである、TiNbSn合金への生体親和の付与をいち早く確認できたことで、関連する実験や考察を深彫りできたこと。 (2)これまでの研究や予備実験を基に構築した陽極酸化セットアップ装置により、高性能を期待する所望の条件(高圧印加)での陽極酸化成膜実験を実施できたこと。 (3)実験計画を綿密に策定して系統的に研究を進めたため、予想に反する結果が出ても、予め考えていた対処法で対応し、無駄な作業を行わずに進めることができたこと。 (4)研究分担者(東北大学医学研究科)との共同研究が三年目を迎え、先方が分担する抗菌試験のノウハウが確立し、効率的な実験を実施できたこと。 (5)厚生労働省に薬事申請をしていた人工股関節ステム用の低ヤング率TiNbSn合金(本申請の対象材料)が、昨年6月に認可を受け、グループの研究が飛躍的に推進できたこと。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている陽極酸化によるインプラント材としてのTiNbSn合金の高機能化では、電解浴を弱酸の酒石酸Na系で実施しているが、光触媒活性の改善に有効な高い結晶性を有する成膜には、酸素供給が高い強酸が有効である。硫酸に含まれる硫黄は酸化膜に取り込まれることから、硫酸で成膜した陽極酸化膜の細胞毒性が懸念されたが、細胞試験の結果無害であることが判明した。そこで硫酸電解浴で成膜した陽極酸化膜の、生体親和性、抗菌性、耐摩耗性の各実験を行い、更なる高機能化が可能かどうかを検証すると同時に、膜質に及ぼす電解浴組成と印加電圧をはじめとする電気化学条件の影響を明らかにすることで、成膜反応の学術を深める。さらには、抗菌性や光触媒性能の向上に有効な光照射下での励起種の再結合抑制に有効な、励起種分離を促進する申請者が考案したヘテロジャンクションモデルの妥当性を、実験と理論計算から検証する。一方、基板のTiNbSn合金の低ヤング率化はβ<110>とα"<010>集合組織の先鋭化によることから、従来のスウェージング後の溝ロール圧延において圧下率を高めた強加工を実施することに加え、アーク溶解で溶製したボタンインゴットを圧延することで配向制御の促進が可能かどうかを検討し、更なる低ヤング率を得るための加工条件を探索する。
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