研究課題/領域番号 |
20H02463
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中谷 真人 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30725156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱電材料 / 複合材料 / フラーレン / ゼーベック効果 / 巨大熱電効果 / 真空共蒸着 |
研究実績の概要 |
C60薄膜は、既往材料に比べ、室温付近で数100倍のゼーベック係数Sを示すなど次世代熱電材料の候補であるものの、導電率σが極めて小さく電力を上手く取り出せないことやN型/P型特性の制御が困難であることが弱点である。本研究の目的は、σとSが共に優れた値を示す新材料群として、C60と金属酸化物ナノクラスター(MOx)から新奇複合薄膜を創製することである。 2020年度は、金属酸化物としてVI価およびⅣ価の酸化モリブデン(それぞれMoO3およびMoO2)をそれぞれC60と真空共蒸着することでMoOx・C60複合膜(x = 2, 3)を作製する実験設備を整え、複合膜の熱電特性を評価した。 最初に、供給比y(MoO3/C60)が0~4.7の条件で作製したMoO3・C60複合膜のSおよびσを調べたところ、複合膜はP型特性を示したことから、MoO3はC60に対してドナーとして機能することが分かった。yの増加と共にσは増加し、C60薄膜よりも最大で10万倍大きな値が得らた。特に、yが0~0.03の範囲内では、大きなS値(~30mV/K)を保持しながらσが千倍まで増加し、その結果、C60薄膜に比べて出力因子が約100倍向上した。一方、y>0.03の条件では、Sが急激に減少することから、MoO3・C60複合膜の熱電特性はMoO3とC60の組成比nに強く依存すると考えられる。現在、正確な組成比nをX線光電子分光によって評価する実験を進めている。 また、MoO2とC60の複合膜についても供給比yに関わらずP型特性を示した。但し、C60薄膜へのMoO2ドープでσを僅かに増加させると、S値が千分の1以下まで急激に減少することで、出力因子が劣化した。即ち、C60・(MOx)複合膜では金属酸化物中の価数も重要な制御因子であることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、導電率σとゼーベック係数Sが共に優れた値を示す高性能熱電材料群として、C60と様々な金属酸化物(MOx)を複合化させたC60・(MOx)薄膜の創製を目指している。2020年度は、酸化モリブデンとC60からなるMoOx・C60複合膜(x = 2, 3)を作製し熱電特性を評価したところ、MoO3・C60複合膜では大きなS値(~30mV/K)を保持しながらσが千倍まで増加し、C60薄膜に比べて出力因子が約100倍向上することを見出した。さらに、C60薄膜はN型熱電特性を示すが、MoO3・C60複合膜はP型特性を示した。これまで、C60ベースの熱電材料でのP型特性発現は報告されていない。以上の出力因子の向上およびP型特性発現は、C60を構成要素にもつ熱電素子(π型素子)の実現へ向けて大変画期的な成果であると考えられる。さらに、本年度は、金属酸化物の価数がゼーベク係数の制御因子である可能性が示されるなど、新奇高性能熱電材料群C60・(MOx)の創製へ向けた次年度以降の研究に繋がる多くの成果が得らた。以上から本年度は、当初の研究計画と照らし合わせて良好な進捗が得られたものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、MoO3とC60を複合化させることでP型特性の発現および出力因子の大きな向上(C60薄膜のに比べ100倍)を実現した。一方、実用的な熱電素子はN型およびP型材料が電極を介して連結したπ型構造から構成されるので、応用のためには、N型熱電特性を示すC60・金属酸化物(MOx)複合体の実現を進める必要がある。MOxの候補としては、C60薄膜よりも小さな仕事関数をもつ物質(酸化バリウム、酸化ストロンチウム、五酸化二バナジウムなど)を候補としている。材料の調達は2020年度に完了しており、2020年度に導入した電子線蒸着装置を用いた予備実験(昇華条件の探索など)を現在進めている。2021年度は、以上の金属酸化物とC60からなる複合膜を作製し、各々の導電率σおよびゼーベック係数Sの評価を進める。また、2020年度の研究成果として、C60に対するMOxの組成比が重要な制御因子である可能性が示されたので、組成比やC60への電荷移動量をX線光電子分光法によって定量的に評価する。 また、MoO3・C60複合薄膜については、その大きなSの起源は未だ不明であるため、その解明も進める、特に、MoO3・C60薄膜のドメイン構造やC60薄膜中におけるMoO3の空間分布や凝集構造を走査トンネル顕微法/分光法によって詳しく調べ、MoO3・C60薄膜のSおよびσとの関連を探る
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