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2021 年度 実績報告書

炭素-金属酸化物ナノクラスター集積固体の創製と高性能熱電材料への応用

研究課題

研究課題/領域番号 20H02463
研究機関名古屋大学

研究代表者

中谷 真人  名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30725156)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード環境発電 / エネルギーリサイクル / ゼーベック効果 / フラーレン / 金属酸化物 / ナノクラスター材料 / フレキシブルエレクトロニクス / マイクロスケール計測
研究実績の概要

C60薄膜は、既往材料に比べ、室温付近で数100倍のゼーベック係数S(巨大熱電効果)を示すなど次世代熱電材料の候補であるものの、導電率σが極めて小さく電力を上手く取り出せないことやN型/P型特性の制御が困難であることが弱点である。本研究の目的は、σとSが共に優れた値を示す新材料群として、C60と金属酸化物ナノクラスター(MOx)から新奇複合薄膜を創製するための指導原理を確立することである。
2021年度は、金属酸化物としてVI価の酸化モリブデン(MoO3)をC60と真空共蒸着することで(MoO3)n・C60複合膜を作製し、熱電特性、光吸収特性、分子スケール構造を評価した。2020年度には下記の①および②が主な成果として得られた。①供給比n(MoO3/C60)、0<n<0.03の条件で複合膜を作製すると大きな|S|= 31 mV/Kを保持しながらσが増加することで出力因子が1000倍まで向上する。②n>0.03では、σは向上するがSの急激な減少が起きる。この原因を探るために、2021年度は各組成比の複合膜に対して光吸収特性を調べたところ、n=0.03の(MoO3)n・C60複合膜はC60薄膜とほぼ同一の吸収特性を示すことが分かった。特に光学吸収端が同じであることから、エネルギーギャップの減少等は起きていないと考えられる。一方、n=4.6の複合膜では、光学吸収端の長波長シフトが起きており、C60薄膜と比べて電子構造が変化していることが分かった。即ち、正孔ドープに対してC60薄膜の電子構造が保持されることは(MoO3)n・C60複合膜(0<n<0.03)の大きなSと深く関連する事を示唆する。さらに、(MoO3)nからC60薄膜へドープされた正孔は(MoO3)n周辺に局在化することも明らかになっており、このような電荷局在と巨大S発現との関連についても考察を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、C60と金属酸化物(MOx)を複合化させたC60・(MOx)薄膜を創製し、導電率σとゼーベック係数Sが共に優れた値を示す新規な高性能熱電材料へ応用することを目指している。2021年度は、酸化モリブデン(MoO3)とC60からなる複合膜[(MoO3)n・C60]において、大きなS値(31 mV/K)を保持しながらσの増加する組成領域(0<n<0.03)について調べたところ、C60薄膜の電子構造を保持しつつ電荷(正孔)ドープされることが出力因子の著しい向上(Sを保持しつつσの向上)に寄与することが示唆された。また、(MoO3)nナノクラスターからC60薄膜への正孔ドープは局所的であることが示され、大きなSとの関連を考察する上で大変興味深い知見が得られた。以上の知見は、これまで未解明である巨大熱電効果のメカニズム解明および制御方法(巨大S値を保持しつつσを向上させる方法)を確立する上で大変重要な結果であると考えられる。以上から本年度は、当初の研究計画と照らし合わせて良好な進捗が得られたものと考えられる.

今後の研究の推進方策

2022年度は、(MoO3)n・C60複合膜(0<n<0.03)が大きなS値を示す機構をより詳しく定量的に明らかにするために、nに対する電子構造の変化や正孔ドープ量、正孔空間分布などの変化を光電子分光法および走査トンネル顕微法/分光法によってより系統的に詳しく調べ、S値の変化と比較検討する。さらにこの結果を基に、巨大熱電効果の発現機構と制御法(巨大S値を保持しつつσを向上させる方法)の解明を目指す。
また、(MoO3)n・C60複合膜はP型熱電材料として振舞うことが既に明らかになっているが、優れた熱電変換特性を示す熱電素子を実現するためには、(MoO3)n・C60複合膜と同程度の|S|およびσを示すN型熱電材料を創製しπ型素子構造を構築する必要がある。この目的から、C60薄膜よりも小さな仕事関数をもつ酸化鉄(FeOおよびFe2O3)とC60からなる複合膜を作製し、N型特性を示す熱電薄膜の実現を目指す。これまで、電子線蒸着装置を用いた酸化鉄蒸着に関する予備実験(昇華条件の探索など)はほぼ完了しているので、2022年度は、(FeO)n・C60複合膜の作製および評価(S、σ、電子構造、電荷分布、分子スケール構造)を本格化する。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] Thermally Stable Array of Discrete C<sub>60</sub>s on a Two-Dimensional Crystalline Adlayer of Macrocycles both in Vacuo and under Ambient Pressure2022

    • 著者名/発表者名
      Kawano Shin-ichiro、Nakaya Masato、Saitow Masaaki、Ishiguro Atsuki、Yanai Takeshi、Onoe Jun、Tanaka Kentaro
    • 雑誌名

      Journal of the American Chemical Society

      巻: 144 ページ: 6749~6758

    • DOI

      10.1021/jacs.1c13610

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Photopolymerization effects on the external quantum efficiency of fullerene/zinc phthalocyanine heterojunction solar cells2021

    • 著者名/発表者名
      Kato Masahiro、Nakaya Masato、Watanabe Shinta、Okamoto Koichi、Onoe Jun
    • 雑誌名

      AIP Advances

      巻: 11 ページ: 075227~075227

    • DOI

      10.1063/5.0052714

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Resolving Site-Specific Energy Levels of Small-Molecule Donor-Acceptor Heterostructures Close to Metal Contacts2021

    • 著者名/発表者名
      Benhnia Amani、Watanabe Shinta、Tuerhong Rouzhaji、Nakaya Masato、Onoe Jun、Bucher Jean-Pierre
    • 雑誌名

      Nanomaterials

      巻: 11 ページ: 1618~1618

    • DOI

      10.3390/nano11061618

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Kinetic study of photopolymerization and thermal-depolymerization in C60 films2021

    • 著者名/発表者名
      Tatsuma Izumi, Masato Nakaya, Jun Onoe
    • 学会等名
      The 62nd Fullerenes-Nanotubes-Graphene General Symposium
  • [学会発表] 高性能熱電材料の開発に向けた C60 光重合生成物の反応速度論的解析2021

    • 著者名/発表者名
      和泉竜馬,中谷真人,尾上 順
    • 学会等名
      第53回日本原子力学会中部支部研究発表会
  • [学会発表] マイクロギャップ電極を用いたフラーレンC60薄膜の熱電物性評価2021

    • 著者名/発表者名
      中谷真人, 和泉竜馬, 渡邊真太, 尾上 順
    • 学会等名
      第82回応用物理学会秋季学術講演会
  • [学会発表] C60と酸化モリブデンの複合化による新奇フレキシブル熱電材料の創製2021

    • 著者名/発表者名
      中谷真人, 河合拓哉, 和泉竜馬, 渡邊真太, 尾上 順
    • 学会等名
      ナノ学会第19 回大会
  • [学会発表] フレキシブルπ型熱電素子の実現に向けたC60・Cs2CO3 複合薄膜の作製2021

    • 著者名/発表者名
      和泉竜馬, 渡邊真太, 中谷真人, 尾上 順
    • 学会等名
      ナノ学会第19 回大会

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公開日: 2022-12-28  

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