研究課題
C60薄膜は、室温付近において既往材料の数100倍のゼーベック係数Sを示すなど次世代熱電材料の候補として大変有望であるものの、導電率σが極めて小さいことやN型/P型特性の制御が困難であることが実用的なπ型熱電素子へ応用する上での欠点であった。本研究では、σとSが共に優れた値を示す新材料群として、C60と金属酸化物ナノクラスターから新奇複合薄膜を創製することを目指している。2022年度は、金属酸化物として酸化モリブデン(IV)(MoO2)および酸化モリブデン(VI)(MoO3)をそれぞれC60と複合化させ、σ、S、及び電子構造を評価した。MoO3・C60複合膜のX線光電子分光の結果からは、MoO3組成の増加によってC60への正孔ドープ量が増加することが示されると共に、MoO3が多量体(ナノクラスター)としてC60と相互作用していることが明らかになった。これは走査トンネル顕微鏡/トンネル分光測定の結果とも良く対応しており、MoO3・C60複合膜がナノクラスター集積固体であることが裏付けられた。昨年度の結果と合わせて考えると、MoO3ナノクラスターとC60間の相互作用によって、C60の電子構造がほぼ保持されつつ正孔ドープされることが大きな出力因子を示す(C60薄膜の大きなS値を保持しながら導電性が向上する)要因の一つであると考えられる。さらに、P型特性を示すMoO3・C60複合膜を加熱処理するとN型特性が発現することを見出した。加熱処理で得られたN型-MoO3・C60複合膜はC60薄膜に比べ150倍大きな出力因子を示すので、π型熱電素子の構成材料として大変有望である。N型-MoO3・C60複合膜ではMoの価数が6価から減少していることも明らかになっており、これは金属酸化物の化学状態によって複合膜のP型/N型特性を制御できることを示している。
令和4年度が最終年度であるため、記入しない。
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