火力発電ボイラの主要構成部材である蒸気配管の使用寿命は、わずか数mmほどの幅しかない溶接熱影響部(Heat Affected Zone: HAZ)のクリープ強度によって支配されている。本研究では、多角的組織解析手法によりHAZの微細組織を明確に捉え、デジタル画像相関法(DIC: Digital Image Correlation)と高温クリープ試験法を組み合わせることによりHAZでの局所クリープ変形挙動を直接的に評価する。それらの結果から、HAZのクリープ変形機構・破壊機構の学理を構築する。 本研究では、発電プラント内での多くの使用実績を持つASME規格Grade 91の溶接継手を試料とした。 2022年度は、断面積の異なる試験片を作製してDICクリープを行い、HAZが他の部位から受ける変形拘束の条件が、そのひずみ発達に及ぼす影響を定量的に評価した。その結果、試験片断面積が大きくなるほど、HAZの変形拘束の程度が増し、溶接継手の破断時間が増加することがわかった。また、いくつかのクリープ中断試験を実施し、2020年度に確立したHAZ領域の区分方法を適用しつつ、その試験片の微細組織を評価した結果、ひずみの集中する箇所を具体的に特定することに成功した。 加えて、ビッカース硬さ試験機で導入した圧痕の距離変化を用いたひずみ計測を実施して、DICクリープ試験で評価されるひずみとの比較を行った。その結果、両者のデータは良い一致を示し、DICクリープ試験によるひずみの評価の妥当性が裏付けられた。 本研究では、複雑なHAZ組織の区分法を提案し、また、DICクリープ試験法という新たな力学試験を用いて、変形中のHAZのひずみ発達を定量的に評価して、HAZの各領域におけるそれぞれのクリープデータを取得することに成功した。これらは、HAZのクリープ変形機構・破壊機構を解明する上で重要な知見である。
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